禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 障子から差し込む光が、その横顔をやわらかく照らす。
 かつて戦いに刻まれた傷も今はどこか穏やかな影に変わっていた。

「ああ、小春は本当に可愛いな。寝息まで小さくて心許ない」

 かつて失われていたその声が、今は当たり前のようにそこにある。
 空気を震わせるその響きが、日常の一部として自然に溶け込んでいる。

 雪乃は和臣の音を聞くたびに、胸の奥がじんわりと満たされるのを感じていた。
 失って、取り戻して、ようやく手に入れたものの重みが静かに沁みていく。

 だが、ふと赤子の指先に触れた瞬間。

 雪乃の表情が、わずかに強張る。

「⋯⋯冷たい」

 ほんの一瞬、赤子の肌にかすかな冷気が宿った。

 息が白くなるほどではない。
 だが確かに指先に触れた空気が、ほんのわずかに冷え微かな違和感を残す。

 夏の光の中には、本来あるはずのない冷たい気配に雪乃の指が、わずかに震える。

「小春⋯⋯雪女の力を受け継いでいるわ」

 目を伏せる。

 まぶたの裏に、過去の記憶がよぎる。
 大妖に喰われ、妖狐や鬼に狙われ戦った。

 感情のままに力を使い、愛する人を殺めてしまった苦い記憶。