禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 その名を、噛み締めるように何度も呼ぶ。

 和臣の掠れる声を聞くと雪乃の目から、静かに涙がこぼれた。
 頬を伝い、顎先からぽたりと落ちる。

 それは氷ではなく、あたたかな水だった。

「本当に戻られたのですね」

 和臣は、少しだけ体を離し、雪乃の頬に触れる。

 指先は荒れているが、その触れ方はどこまでも優しい。

「雪乃⋯⋯お前がくれた。でも、代わりにお前は⋯⋯」
 その声には、確かな喜びと消せない痛みが混じっていた。
 言いかけて、言葉を止める。

 千年生きられる妖が、莫大な寿命を失う。
 それは和臣には想像のつかない喪失だった。
(人間が蟻になるようなものか? 俺の声にそれだけの価値があるとは思えない)

 雪乃は、静かに首を振った。
「よろしいのです。恋しかったのは和臣様の声だけではありません。ただ、貴方と一緒になりたかった。貴方の隣にいる未来が少しでも長い選択をしただけです」
 雪乃の微笑みには、氷のような冷たさはなく人の温もりだけがあった。

 風が、柔らかく二人の間を抜ける。
 和臣は強く唇を結び、決意したように雪乃の手を取った。