禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 凍りついていた空気が緩み、春の匂いがわずかに戻ってきた。
 雪乃の瞳から氷の蒼がが消え、膝がわずかに揺れる。

 力を失った身体が、自分の重さに戸惑うように倒れ込みそうになった。

「雪乃!」
 その瞬間だった。
 はっきりと、響いた声。

 た空気を裂くように、確かな音として届く。
 雪乃の目が、大きく見開かれる。

 聞き間違いではない。

 夢でもない。
 今、確かに和臣の声が聞こえた。

 周囲を見渡すと、すでに翠人の姿はなかった。
(取引が成立したのね⋯⋯ありがとう翠人様)

「和臣様?」
 雪乃は、ゆっくりと振り返る。
 差し込む朝のような淡い光の中で、和臣が立っていた。

 自分の喉に手を当て、信じられないものを確かめるように、何度も息を飲んでいる。

「声が戻ったのですね?」
 震える声。
 それは先ほどまでの氷の静けさではなく、確かな“人”の揺らぎを帯びていた。
 その問いに、和臣ははっきりと頷いた。

 そして、和臣は一歩で距離を詰めると、迷いなく雪乃を抱きしめた。
 その腕は強くもう二度と離さないと誓うように熱を帯びていた。


「雪乃! 雪乃⋯⋯雪乃⋯⋯」