禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

「明日、儚く散る命になるとしても、死ぬ時は和臣様と一緒が良いのです」
 雪乃はゆっくりと続けた。
 それは冷気ではなく、どこか温かなものを含んでいた。

 妖に狙われれば、戦う術も持たない弱い生き物ーー人間。
 あと生きられるとしても、せいぜい五十年くらいだ。

 沈黙が落ちる。
 やがて、翠人はゆっくりと笑った。
 今度は、先ほどよりもわずかに深く楽しむように。

「面白い。その取引、受けてやる」
 翠人の言葉とともに、空気が変わる。
 運命が、静かに動き出す音がした。


 渦巻いていた冷気が、ふっと途切れた。
 まるで世界そのものが息を止めたかのように、音が消える。

 先ほどまで空間を満たしていた氷の粒子は、力を失った雪のように、はらはらと静かに落ちていった。

 その中心で、雪乃の身体から、淡い光がゆっくりと剥がれていく。
 肌にまとわりついていた冷たい輝きが、薄絹を脱ぐように、するりと離れていく。

 千年を生きるはずだった力。
 それが、霧のようにほどけて溶けていった。

 触れようとすれば消えてしまう儚さで、跡形もなく。
 足元の霜が、じわりと水へと変わる。