禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

「対価は? その声は時を戻す代償として捧げられたもの。それ相応の対価が必要になるぞ。お前が代わりに私に身を差し出すのか?」
 その問いに雪乃は一切の迷いなく答えた。

「いいえ、私の雪女としての力を捧げますわ」
 一瞬、静寂が落ちる。

 虫の音すら遠のいたかのような、深い無音。
 翠人の瞳がわずかに見開かれ、すぐに細められた。

「正気か? その力がなければ、お前はただの人間に等しい。鬼に出会えば今度こそ喰われるぞ」
 低く、確かめるような声。
 言葉は淡々としているが、その奥には試すような響きがある。

 雪乃は、わずかに目を伏せた。
 そして、静かに微笑む。

「その時は私に惚れたこの方が、守ってくださるでしょう」
 そっと、和臣の方へ視線を向ける。

 傷だらけで、それでもなお立ち続けるその姿。
 声を失ってなお、必死に何かを伝えようとする、その不器用な強さ。

 風が、ふわりと吹き抜ける。
 翠人はしばし無言で二人を見つめた。

「雪女でなくなれば、お前は無価値だ。確かに狙われる頻度は格段に低くなる」
 静かに告げも、その声は震えていた。