(妖狐⋯⋯この男も私に惚れている)
姉の櫻子を生贄にし、和臣の母の病を治した身勝手で残酷な記憶も蘇っている。
和臣が愛した雪乃は心優しい女。
実際の雪乃は妖の強かさを持っている。
(これから和臣様は本当の私を知って幻滅して離れていくかもしれないわね)
それでも、雪乃は構わないと思っていた。
和臣は愛のために声を失い、恐怖の世界を繰り返してくれたのだ。
(そんな男⋯⋯手放せないわ。でも、それは私の都合⋯⋯)
雪乃は、覚悟を決めためらいなく言葉を続ける。
「妖狐様、お名前はなんとおっしゃるのですか?」
妖狐は少し驚いた表情をしたが、ゆっくりと自分の名を教えてくれた。
「⋯⋯翠人(すいと)」
「翠人様、取引をお願いできますか」
空気が、わずかに張り詰める。
翠人の瞳が愉しげに細められた。
「ほう?」
雪乃は和臣の手を一度だけ強く握り、そして離した。
「この方の“声”を、戻していただきたいのです」
妖狐の視線が和臣へと向けられ、そして再び雪乃へと戻る。
姉の櫻子を生贄にし、和臣の母の病を治した身勝手で残酷な記憶も蘇っている。
和臣が愛した雪乃は心優しい女。
実際の雪乃は妖の強かさを持っている。
(これから和臣様は本当の私を知って幻滅して離れていくかもしれないわね)
それでも、雪乃は構わないと思っていた。
和臣は愛のために声を失い、恐怖の世界を繰り返してくれたのだ。
(そんな男⋯⋯手放せないわ。でも、それは私の都合⋯⋯)
雪乃は、覚悟を決めためらいなく言葉を続ける。
「妖狐様、お名前はなんとおっしゃるのですか?」
妖狐は少し驚いた表情をしたが、ゆっくりと自分の名を教えてくれた。
「⋯⋯翠人(すいと)」
「翠人様、取引をお願いできますか」
空気が、わずかに張り詰める。
翠人の瞳が愉しげに細められた。
「ほう?」
雪乃は和臣の手を一度だけ強く握り、そして離した。
「この方の“声”を、戻していただきたいのです」
妖狐の視線が和臣へと向けられ、そして再び雪乃へと戻る。
