禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 最初は、些細なものだった。
 ほんの小さな違和感。何かを落としたような感覚。

 次は、記憶の一部。
 思い出そうとしても輪郭が曖昧な、空白の時間。

(『俺と付き合え』)
 自信満々に自分を口説いてきた凜とした低い過去の和臣の声。

 冷たい理解が、胸の奥へと沈む。
 和臣が、何かを伝えようとしている。

 唇が動くが音にはならない。
 確かに、言葉を紡いでいるはずなのに空気は震えず、ただその形だけが虚しく残る。

 叫びにも似たその無音が、かえって強く雪乃の心を打った。
 雪乃の指先が、かすかに震える。

 先ほどまで空間すら支配していたその手が、今はただ、触れることすら躊躇うように揺れている。
「私、なのですね。全ては私のせい。私が雪女だから⋯⋯」
 静かな声。
 凍てついた夜気の中に、柔らかく落ちる。

 和臣は首を振った。
 雪女だから執拗に妖に狙われる。
 雪乃から離れれば和臣は安全に暮らせると理解しているはずだ。


「どうして? 和臣様なら私でなくても大丈夫なのに⋯⋯私より貴方を幸せにできる女がいるはずなのに、なぜ私なのですか?」