禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 和臣が、そこにいた。
 春らしくもなく凍りついた世界で、確かに現実のものとしてそこに立っている。

 肩で息をし、乱れた衣の隙間からは血が滲み、白い息が荒く空に溶けていく。
 無事だが、傷もあり息も荒い。

 それでも生きている。
 その事実が、何よりも鮮明に、雪乃の胸へと落ちてきた。

 その姿を見た瞬間。
 雪乃の瞳が、ずかに揺れる。

 凍てついた湖面に、小さな波紋が広がるように。
 完全に凍りきっていたはずの感情の奥で、微かな温もりがひび割れを生んだ。

「和臣様」
 一歩、近づく。
 霜に覆われていた床が、彼女の足取りに合わせてかすかに音を立てる。

 氷の粒子がふわりと舞い、淡い光を帯びながら消えていく。
 その途中で、ふと足が止まる。

 雪乃の髪が銀髪からゆっくりと黒く変わっていった。

(そうだ。和臣様は声を⋯⋯それはきっと時を戻した代償。全ては私を守るため、化け物を愛した代償)
 胸の奥で、最後の欠片が繋がる。

 ひとつひとつ、無理やり引き寄せられるように。

 忘れたはずの事実が、静かに、しかし確実に形を成していく。
 ――時間を戻すたびに、代償があった。