禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 風も、呼吸も止まったかのような静寂が、その場を支配する。

 雪乃はゆっくりと手を下ろす。
 白い霧が、静かにほどけていく。

 氷の粒子が淡く舞い、やがて消えていく中で、ただ一つ残るのは氷像となった鬼。
 雪乃はそれを、静かに見つめた。

 その瞳に宿るのは、勝利の喜びではない。ただ、終わりを確認する冷ややかな視線。
「これで終わりでございますわ」

 その声は、どこまでも静かで、どこまでも遠い。

 ——ぱきり、と。

 小さな音が響く。
 氷の内部に走った一本のひびが、ゆっくりと広がる。
 蜘蛛の巣のように、細く、しかし確実に全身へと伝播していく。

 次第に、その音は増えていく。
 ぱき、ぱき、と乾いた破砕音が重なり、静寂を侵食する。

 そして、砕けた。
 氷ごと、鬼の身体が粉々に崩れ落ちる。

 砕け散った欠片が床に散らばり、淡く光を反射しながら、やがてただの冷たい結晶へと変わっていった。
 氷の破片とともに、黒い霧も霧散していく。

 やがて、何も残らなかった。
 春の気配が、遅れて戻ってくる。

 雪乃は、その場に立ち尽くしたままゆっくりと振り返る。