禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 感情の起伏を感じさせない静かな断定。

 真っ白な指先が、わずかに動く。
 それだけで、空間が応じた。

 空気がきしみ、目に見えない流れが一斉に収束する。
 温度がさらに落ち、吐息が白く濃く広がった。

 鬼の足元が凍りつき、膝まで氷に呑み込まれる。
 床板を覆うように広がった氷は、瞬く間に厚みを増し、巨体を地へと縫い留める楔となった。

「ぐ、お、おおおお!!」
 鬼が咆哮する。
 その声は怒りと焦燥を孕み、空気を震わせるが動きは鈍い。

 力任せに引き剥がそうとする鬼。
 赤黒い筋肉が膨れ上がり、氷を砕こうと全身が軋む。

 その力は確かに強大だった。
 氷がぎしぎしと悲鳴を上げ、表面に細かなひびが走る。

「力任せ、でございますね」

 雪乃の目がわずかに細まる。
 その瞳には、揺らぎがない。

 その奥にあるのは、冷徹な理解と全てを見通した者の静かな確信。
 そして微かな、哀れみ。

(この程度の相手、雪女の力を使えば造作もない。あとは私の心がどれだけ人の心を持ち続けられるかだわ)
 鬼の動きも怒りも突進も全て雪乃には楽に推測できるものだった。