禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 間一髪の時を退けても、和臣は退かない。

 雪乃を包む腕は、決して緩まなかった。
 背に受ける風圧も、迫る瘴気も全てを遮るように、ただ一人を守るためだけにその身を盾にする。

 自分の冷たい体とは相反するその温もりに触れた瞬間、雪乃の中で、何かが音を立てて繋がった。

(和臣様、何度私を守ってきたの?)
 ひび割れた記憶の断片が、雪崩のように流れ込む。
 凍りついた湖面が割れるように、封じられていた過去が一斉に押し寄せ視界の奥を白く染めていく。

 黒い霧。
 息をするだけで肺を侵すような、重く淀んだ闇と鬼の咆哮。
 大地を震わせ、骨の髄まで響く獣とも人ともつかぬ絶叫。

 そして、命の温もりを感じさせるような和臣の体。
(和臣様を逃して私は大妖に食われ死んだはず⋯⋯私の初めの死)

 頭の奥が、凍りつくように冴え渡る。
 感情の熱とは切り離された、冷たい思考が静かに浮かび上がる。

 感情とは別の層で、何かが目を覚ます。

 ーー二度、繰り返した。

(私が和臣様を殺めてしまった記憶もあるわ。なぜ、そんな化け物のような女を守ろうとするの?)

 雪乃の瞳が、完全に蒼へと染まる。