禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

(雪女? 誰のこと? 私⋯⋯?)

 人を惑わす妖の名と自分が結びつかず、雪乃の心がひどく揺らいだ。
 その隙が、鬼の怒りをまとった突進を許してしまう。

 黒い霧が爆ぜ、轟音とともに鬼の巨体が迫る。
 雪乃はただ立ち尽くす。

「⋯⋯つ」
 声を失ったはずの和臣の、掠れ、痛むようなその声。

 雪乃が驚いて振り向くより早く、和臣はその身を投げ出して雪乃の肩を抱き寄せ、覆い被さるように庇った。

 風が砕けるような衝撃が駆け抜け、霧が裂け、鬼の巨腕が和臣の背に迫る。

 雪乃はただ呆然と、和臣の温もりと、その必死の腕の力を感じるしかなかった。