禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 壁の木目が歪んだように見え、障子の影が形を変える。

 その霧を裂くように、鬼の怒声が響いた。
 その声は獰猛だが、目つきには単純な力任せの思考しか見えない。

 知恵に乏しい鬼は、力こそ強いが策略や慎重さに欠けていた。
 雪乃は一歩後ろに下がり、冷静に視線を巡らせる。

 霧の中にちらつく影を読み取り、鬼の進行方向を計算する。
 彼女の青緑の瞳が普段とは違う色をしていることに気付いた和臣は僅かに動揺する。

「和臣様、どうかお側にいてくださいませ」
 声は落ち着いているが、そこには覚悟と普段はない冷たさが滲む。

 和臣は頷き、雪乃の隣で手を握り返す。
 雪乃は鬼を挑発するように、足元の霧を踏みながら静かに動く。

 鬼はその動きにすぐに反応し、勢い余って霧の中を無計画に突進する。
 雪乃は冷静に距離を取りつつ、霧の奥に作った影や物音を利用して鬼の注意をそらす。

「ふふっ、鬼さん、こちらへいらっしゃい。手の鳴る方へ」

 雪乃の声は冷たく、ほとんど凍りつくようだった。

 氷のような蒼い瞳が光ると、屋霧の中で温度がひんやりと下がる。