禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 鬼は一歩一歩、踏みしめるたびに、黒い霧がさらに濃く立ち込める。
 雪乃の髪や衣服に霧が絡みつき、寒気と不安が背筋を走る。

 和臣は手で「落ち着け」と示し、目で雪乃をしっかりと見つめる。
(妖狐が雪乃を諦めたと思ったら、今度は鬼か)

 和臣は新たな妖が雪乃を狙いに来たことに動揺するも、必ず彼女を守ると誓う。

 黒い霧の中、鬼は唸り声をあげながら、雪乃に迫る。
 屋敷の扉が軋み、暗い影が壁に踊る。
 今までの静かな日常は一瞬で遠くに消え去り、二人はこの異形の脅威に立ち向かわねばならないことを悟った。

「鬼? 妖の鬼か⋯⋯」
 雪乃は以前、妖に関する本を和臣の部屋で見たのを思い出していた。

 “怒りや恨みから生まれる力の権化。力は強いが知恵に乏しく、しばしば大妖に従う。”

 雪乃の瞳が、静かに、しかし確実に変質した。
 青緑の柔らかさは消え、氷の底を思わせる蒼が宿る。

 感情を凍らせ、判断だけが研ぎ澄まされた光。
(知恵に乏しい……要するに、馬鹿なのね。この程度の下等な妖が、私を花嫁に? 冗談も大概にしなさい)

 屋敷全体を包む黒い霧が、不気味に脈打つ。