禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

「和臣様、今日も一日、ありがとうございました。お義母様も、さぞお喜びになられることでしょう」
 雪乃は目を細め、夕陽に照らされる和臣の顔を見上げる。

 和臣は手の動きで小さく丸を描き、「君も喜んでくれるなら自分も嬉しい」と伝える。
 雪乃はそれを見て、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 二人は静かに屋敷へと歩を進める。
 春の風が頬をかすめ、花開いた梅の香りが残る街路を後にした。

 しかし、屋敷の門に近づくと、空気が一変した。重苦しい黒い霧が、屋敷全体を包んでいる。

「な、何事でございますか?」

 雪乃の声が少し震える。霧の奥に、赤い肌に漆黒の髪、鬼のような角を持った異形の男が現れた。
 その目は不気味に光り、低く唸るような声で告げる。

「美しい女だ。白川雪乃、俺の花嫁になれ」

 雪乃は思わず後ずさりし、和臣の腕にすがる。
(どうして私の事を知ってるの? どうして人間の私を嫁に?)

 和臣はすぐさま雪乃の手を握り、手で落ち着ける仕草を見せる。
 声はなくとも、必ず守るという意思がその瞳に宿っている。