禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

「和臣様?」
 和臣はゆっくりと雪乃の手にその簪を差し出す。

 その仕草は、言葉がなくても心からの想いを伝えている。
 雪乃はその意味を理解した。

 大切にしていた簪を雪乃がなくして悲しんでいる事をを和臣は気付いていたのだ。
 雪乃の頬が紅く染まる。目の前の和臣は声を出さないが、目や指先の動きで、すべてを語っている。

「和臣様、ありがとうございます。大切に致します」
 そう言いながら、雪乃は簪をそっと手に取り、和臣に向けてお辞儀をする。

 その一瞬、商店街のざわめきや春の光までもが、二人だけの静かな時間に溶けていくようだった。
 和臣は微かに手を握り返し、雪乃の笑顔を目に焼き付ける。

 声はなくとも、言葉以上の想いがそこに交わされていた。
 二人の間には春の柔らかな空気と、確かな絆が流れていた。

 商店街を抜けるころ、夕陽が通りの建物の間に長い影を落としていた。
 和臣は相変わらず声を発せず、ゆっくりと手を差し出して雪乃の手を取る。

 雪乃は照れながらもそっとその手を握り返す。