禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 雪乃の心は恐怖と戸惑いで満ちていた。

 櫻子を簪で刺した記憶が脳裏に蘇る。

 雪乃は自分が簪で人を刺すなんて信じられない。
(でも、私の簪はどこ? 和臣様から頂いたムラサキハナナの簪は!?)

 美織がさらに問い詰める。
「雪乃、何か知っているでしょう? 隠さないで! 櫻子様をどこにやったの?」

 雪乃は深呼吸をひとつ、膳を置く。

 声は震えることなく、しかし心の中では戸惑いを抱えたまま答える。
「わかりません。櫻子お姉様のことは、本当に⋯⋯」

 その声は静かで澄んでいるが、雪女としての半覚醒の記憶と現実の乖離により、自分でも曖昧な感覚に苛まれていた。
 会場にはざわめきと疑念が渦巻く。

 雪乃の姿は冷静に見えるものの、その瞳の奥に揺れる不安は、誰にも読み取れないままだった。

「言葉が喋れないような花婿が嫌で逃げたんじゃないか?」
 その時、客人が囁いた声が雪乃の耳に入る。
(和臣様への侮辱! 許せない)

 雪乃の胸の奥で、かすかなざわめきが始まった。
 雪女としての力が、半覚醒状態のまま呼び覚まされる。