禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

畳の上に落ちる黒が、するり、と縁をほどいたように伸びる。
 人影のようで、人ではない。
 狐の尾のようで、煙のようでもある。

 ただ、存在だけがそこに満ちていく。
 雪乃はひざをつき、影に向けて静かに頭を下げた。

 その瞬間、暗がりから妖狐が姿を現した。

 狐の耳がぴんと立ち、尻尾が静かに揺れる。
 大きく黒光りする瞳が雪乃を捉え、その冷たくも妖しい存在感が部屋を圧倒する。

「白川雪乃、呼んでくれるのを待っていたよ」
 妖狐の声は低く、甘美で危険な響きを持つ。

 その視線は自然と雪乃へと移る。
「やっと、私の花嫁になる決意がついたのか?」

 雪乃は冷たい笑みを浮かべる。
 その瞳は青緑から氷の蒼に変わり、妖狐の威圧をまったく動じず受け止める。

「いいえ、今日は代わりの者を連れてきましたわ」
 氷のような微笑とともに、雪乃の声は静かに、しかし確固たる意思を宿して響く。

 妖狐は一瞬驚き、そして微かに眉をひそめる。
 かつて雪女の力に触れた時の恐ろしさを思い出したのだ。

 この少女は一見従順に見えるが、意思と力を持ち、心を決して譲らぬ者。