禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 胸がぎゅうと締めつけられ、視界が白い光に揺らいだ。

「私には想い人がいます」
 妖狐はふっと微笑んだ。

 それは美しいのに、どこまでも深く暗い穴のような笑みだった。
「考えが変わったら私を呼べ。いつでもお前の元に現れよう。いつだってお前を見てるぞ」

 次の瞬間、九つの尾が大きく翻った。
 風は吹いていない。

 なのに落ち葉と雪が混ざり合うように舞い上がり、煙幕のように視界を覆う。
 風が静まったとき、妖狐の姿は跡形もなく消えていた。

 雪乃はその場に立ち尽くしていた。
 胸の鼓動は雪の降る音より大きく響き、息はかすかに乱れている。
(どうして、特別な取り柄もない人間の私に花嫁の話なんて⋯⋯)

 初雪の夜気が冷たく、けれどその冷たささえ、今はどこか遠い。
 胸の奥に残ったのは、妖狐の声と、あの金色の瞳の残光だけだった。

 ♢♢♢

 雪乃は手に傘を抱え、士官学校の門をくぐった。
 初雪はまだ止まず、屋根に積もった白がゆっくりと落ちる。

 風は冷たいが、彼女の頬を撫でる雪粒は柔らかく、どこか懐かしい。
(――和臣さまに、傘を)