禁忌の雪恋〜声を奪われても君を守る〜

 ふと庭の片隅、黒い竹の間に、影が揺れた。
 最初は風に流れただけかと思った。しかし、その影は風に逆らって形を結ぶ。

 白い狐面のような輪郭。藍染の衣の裾。
 そして、九つに分かれた細い尾が、闇の中でゆらりと揺れた。

 雪乃の息が止まった。

「どなた、ですの?」
 返事の代わりに、影は雪を蹴らぬ足取りで近づいてくる。

 まるで地面に触れていないような滑らかな動きだった。
 初雪がその姿にまとわりつき、薄い光を帯びさせる。

 やがて、雪明かりの下に立ったのは艶やかな黒髪の青年の姿をした妖狐だった。
 瞳は溶けた金のように揺れ、微笑むたびに尾がくすぐるように揺れる。

「ようやく見つけたよ」

 風のような声だった。
 掠れるのに、耳の奥へ直接届くような響き。

「妖狐⋯⋯様?」

 雪乃が後ずさると、妖狐はゆっくりと頷く。
 まるで獲物を驚かせないようにするかのように、優雅で、穏やかな動き。

「白川雪乃、私と契約を結ばないか? 契約を結べばどんな願いも叶えてやる」
 雪乃の肌が総毛立った。
(どうして私なの? どうして私の名前を知ってるの?)