喉がない代わりに、心臓が喋った。
期待という名の熱が一気に広がる。
和臣は胸ポケットから和紙を取り出す。
雪乃に返事を書きたい、それだけだ。
その一心で筆を握るが。
手が、動かない。
(か、書けない⋯⋯!)
つい先ほどまで問題なく文字を書いていたのに、
雪乃の顔を思い浮かべた途端、手首から先が石のように固まった。
(これが、妖狐の妖術)
雪乃への想いを“言葉で告げられない”ようにかけられた呪い。
和臣は奥歯を噛みしめ、筆を落とした。
——それでも伝えたい。
帰り道、彼は人々で賑わう商店街へと足を向けた。
夕暮れの橙が店先を染める中、ひとつの簪が目に入る。
以前、雪乃に贈ったものと同じ意匠。
ムラサキハナナを模した、小さな飾りが揺れている。
(花言葉は⋯⋯『変わらぬ愛』)
あの日、微笑む雪乃が誇らしげに教えてくれた。
和臣は迷わずそれを買い求めた。
手紙を書けなくてもいい。
声がなくても、言葉が封じられていても想いは残せる。
和臣は雪乃の弁当包みにそっと簪を忍ばせた。
たった一輪の紫の花に、彼が賭けられるすべての希望を乗せて。
♢♢♢
期待という名の熱が一気に広がる。
和臣は胸ポケットから和紙を取り出す。
雪乃に返事を書きたい、それだけだ。
その一心で筆を握るが。
手が、動かない。
(か、書けない⋯⋯!)
つい先ほどまで問題なく文字を書いていたのに、
雪乃の顔を思い浮かべた途端、手首から先が石のように固まった。
(これが、妖狐の妖術)
雪乃への想いを“言葉で告げられない”ようにかけられた呪い。
和臣は奥歯を噛みしめ、筆を落とした。
——それでも伝えたい。
帰り道、彼は人々で賑わう商店街へと足を向けた。
夕暮れの橙が店先を染める中、ひとつの簪が目に入る。
以前、雪乃に贈ったものと同じ意匠。
ムラサキハナナを模した、小さな飾りが揺れている。
(花言葉は⋯⋯『変わらぬ愛』)
あの日、微笑む雪乃が誇らしげに教えてくれた。
和臣は迷わずそれを買い求めた。
手紙を書けなくてもいい。
声がなくても、言葉が封じられていても想いは残せる。
和臣は雪乃の弁当包みにそっと簪を忍ばせた。
たった一輪の紫の花に、彼が賭けられるすべての希望を乗せて。
♢♢♢
