ぼくらの恋には込み入った事情が。

 ノルマとして指定された大量の弁当を詰め終えたのは、深夜2時を回った頃だった。これでもすべての作業を終えたわけではなく、つぎのシフトを担うスタッフと交代するのだという。たいへんな作業だ。これまで知らなかった世界を覗き見たようでおれはまだすこし興奮していたが、漆原の表情には疲労が見えていた。当然だろう。学校が終わってすぐに書店でバイトをして、さらに深夜までの工場勤務だ。おれは今日一日だけだが、漆原はこれをほぼ毎日続けているのだ。
「お疲れさま。たすかったよ。これ、給料代わり」
 作業を統括するマネージャーが賄いとして余った弁当をふたつくれた。漆原もひとつもらって、持参したコットンバッグに入れている。
「お疲れさま」
 おれの視線に気づき、疲れた顔に笑顔を浮かべる。
「ふたつももらっちゃったよ」
 ぎこちなく笑って、弁当を持ち上げて見せる。
「家にも朝メシあんのにどうすっかな」
 なんとなく会話が途切れる。
「あのさ……」
「それ食べないの?」
 言葉を発したのはほぼ同時だったが、漆原のほうが大きくはっきりしていた。
「お弁当」
 手に持った弁当を見下ろし、漆原の顔を見る。リュックを背負い、バッグを抱えて、漆原はおれを見つめている。
「いらないんだったらくれない?」
「え?」
 再び弁当に目を落とす。我ながら落ち着きのない動作で情けなくなる。
「3つも食うの?」
「ちがうよ。弟たちに持ってくの」
 弟がいるのか。おれが黙っていると、漆原はすいと視線を逸らした。
「いるならいい。棄てちゃうのもったいないと思っただけだから」
「いや、いいよ。持ってけよ」
 慌てていって、弁当を差し出す。漆原が静かに手を伸ばす。受け渡す瞬間、互いの指が触れた。
「帰ろっか」
「ああ……うん」
 工場を出ると、冷たい夜風が頬を滑り抜けた。敷地を出て、大通りを並んで歩く。
「さっき……」
 弁当が入ったコットンバッグを抱え、漆原がいった。
「なにかいいかけなかった?」
「いや、べつになんでも……」
 言葉を切った。足を止め、その場に立ち尽くした。数時間ぶりにひらいたスマホのディスプレイ。無数の着信履歴が羅列していた。
「風祭?」
 街灯のすくない薄暗い舗道で、漆原がおれを見つめていた。