蛇婿入り(仮題)


「全く良く振る雨だよなぁ」
 入洲千歳は誰とも無くつぶやき、レインコートのフードを取った。
 激しい雨が容赦なく頭を叩く。短く刈り込んだ茶髪から流れ落ちる水は生暖かい。
 蛇入村を包み込む険しい山々。麓の街から山々を経て村へと続く一本道のトンネル。そこから程近い鉄塔の上で、千歳は足をぶらつかせながら座っていた。
 鉄塔からは、村から引き揚げようとしている警察車両のヘッドライトが、激しい雨に遮られ弱々しく光っているのが見えた。
「そろそろ来るぜ」千歳はトランシーバーで仲間に合図した。
 トンネルのすぐ近くに、小規模の爆弾を仕掛けている。トンネルを塞いで村への出入りを遮断するためだ。
 どうしたことか警察を呼ばれるような事態に陥ったため、この「代替わり」が済むまで住民たちには不便を強いることになるだろう。村人たちといえば、ほとんど無償で恩恵に与っているのだ。これくらいの不便は呑み込んで貰わねば。
 警察車両は二台。
 村には刑事が一人残るらしいが、それくらいはどうとでもなるだろう。
「ちゃんと通過させてからやるんだぞ」二台の車両がのろのろトンネルに入っていくのを眺めながら千歳は言った。
 爆発音。
 大地が揺さぶられる轟音。
「おい、俺の話聞いてたか薄ノロ」
 トンネルは完全に崩落している。
 恐らく───否、間違いなく警察車両も巻き込まれただろう。千歳は頭をガシガシ掻きながら鉄塔から飛び降りた。泥が周囲に飛び散った。
「薄ノロ!俺何回も確認したよな?」トランシーバーからは応答が無かった。
 いつもそうだ。不貞腐れると黙る癖がある。薄ノロが勝手に爺様に折檻される分には構わないが、今回は自分にも類が及びそうだ。
 千歳は再び頭を掻き回した。なんだってこうなるんだ。
 崩れたトンネルの上からは泥水が絶え間なく流れ落ち、滝の様相を呈していた。
 雨の中、蛇入には僅かな明かりがぼんやりと瞬いていた。