保健室に行く、と言った彼だったが、向かったのは体育館裏だった。
ほどよく日陰で、人通りも少ない。内緒の話をするにはいい場所だ。
彼はそこまで来ると、やっと手を離した。
「さて、じっくり話を聞こうか」
彼は適当な石の上に座って、そう切り出す。
俺は唾を飲み込んで、それから彼の隣に座った。そして地面に視線を落とす。なにから話せばいいのか、数拍考える。
ひどく緊張していた。
人に悪霊のことを話すのは久しぶりだ。
手が震える。
でも、俺を見つめる安城の視線はとても真摯だった。
この人になら話せる。
話しても、きっと俺を不気味に思ったりしない。
そんな確信があった。
俺は息を吐いた。
「羽島先輩が死んだ時に、俺は視たんだ」
話し出してしまえば、もう止まらなかった。
入学式ではじめて手の悪霊を視たこと、手はランダムに出現すること、手が両手そろったときに羽島卓郎が死んだこと、そして今自分が狙われる番になっていること――。
「俺、どうしたらいいと思う? なにか知らないか? こういうのって、悪霊を祓ったり、成仏させたり、できるものなのか?」
そう言って、俺はすがるように彼を見た。
きっと彼は一緒に解決方法を考えてくれているに違いないと思った。
――しかし、彼は呆気に取られた顔をしていた。
「え?」
予想外の表情に驚くと、彼は慌てたように口元に力をいれた。
「……君って、もしかして幽霊が視えるのか?」
「ええ?」
「すごいな! 面白い話だ! 手の悪霊、なるほどなぁ!」
安城は手を叩いて、まるで新しいおもちゃを与えられた子どものように喜んでいる。
「待てって。すごいって……。ええ? お前も、悪霊が視えるんだろ?」
彼は悪びれることもなく言う。
「視えない」
「嘘だろ! だって、さっき視えるって……」
「言っていない。君を助けたいと言っただけだ」
「羽島先輩のことって言っただろ!」
彼は指を1本立てる。そしてつらつらと言う。
「君は高校1年生の9月までは皆勤だった。休み始めたのは羽島卓郎が死んでからだ。しかも君は彼が死んだ場に居合わせたらしいじゃないか。ふつうに考えるなら、君はそれに関して困っていると考えるのが妥当だ」
俺は目を丸くした。妙だ。
なぜそんなに俺のことを知っているのだろうか。
呆然としていると、彼は言葉を付け加えた。
「調べたんだ」
「どうやって?」
「簡単だよ。知っているか? 職員室に抗議のために乗り込むと、別室に通される。生徒指導室という場所だ。そこには生徒に関するいろんな情報が保管されている。教師は忙しくてずっとは見張っていないから、隙を見て資料を拝借してくるだけさ。簡単だろう?」
俺はポカンと口を開けた。
「じゃあ、俺は……」
助けてもらえないのか。
絶望する俺に、安城は言う。
「僕は悪霊は視えないが、君を助けてやることはできる。君が悪霊に殺されるのは2026年1月4日だ」
「は?」
今度こそ、俺は目を見開いた。
