翌日、6月9日月曜日。俺はいつものように朝早くに登校し、手の悪霊がいないことを確認して教室に滑り込んだ。
教室の黒板には土曜日のロングホームルームで決めたらしい体育祭の出場種目一覧が張り出されていた。それは数学のプリントの裏を利用した掲示物だった。
俺の名前が第一希望のモルックの欄に書かれている。
予想通り人気がなくてあっさり第一希望が通ったのか、それとも安城万理がじゃんけんで勝ち取ったのか。
余った余白には「絶対優勝」という文字が書かれているが、それは二重線で消されて代わりに「楽しもう」と几帳面な字で書かれている。
これは安城が書いたものだと思った。止め、跳ね、払いがきっちりしているそれは彼の性格をよく表している。
俺は彼が登校したらすぐに声をかけるつもりだった。
「なぜ土曜日に俺が休むとわかったのか」、「なぜ俺が休んだ日を覚えているのか」――尋ねたいことは山ほどあった。
しかし、いつまで経っても彼は姿を見せなかった。もっというと、担任の先生も来なかった。代わりに隣のクラスの担任が出席をとった。
あれ、と思っているうちに1限目が終わり、2限目が終わり、午前中の授業が終わってしまった。
昼休みになると、隣の席の陸人が俺の肘をつついてきた。
「ねえ、聞いた?」
「何を?」
彼は口元を片手で抑えてくすくすと笑う。
「万理くん、朝から職員室に乗り込んでいるんだって」
「はあ……?」
「土曜日、体育祭の準備の話があって、先生が女子は椅子を一脚、男子は椅子を二脚運べって言ったんだけど、それがおかしいって抗議しているらしいよ」
「……はぁ」
肩透かしを食らったような、そんな人物を相手にしなくてはいけないとプレッシャーを感じるような、妙な気分になる。
陸人はからからと笑う。
「相変わらず変な人だよね。でも頼もしくて。土曜日も和弥くんの代わりに体育祭の種目決めのじゃんけんしてくれていたよ。モルックは希望者が15人もいてね」
「15人も?」
クラスの半分近い人数だ。モルックがそんなに人気とは知らなかった。
「このクラス、運動苦手な子が多いからね。僕はクラス対抗リレーに出るんだけど……。あ、そうだ。和弥くん、今日お昼持ってきてる? よかったらこの話しながら……」
その時、教室のドアが勢いよく開かれた。
大きな音がして、生徒の視線が集中する。ドアの向こうには安城が立っていた。
彼は大股で俺の席の前までくると、俺の机に両手をバンと叩きつけた。
「君、何かに困っていないか」
「え、えと」
彼の声は必死だった。困惑する俺に、さらに畳み掛ける。
「君が休むのは、あの十字路が関係しているんじゃないのか。もっと具体的に言うなら、羽島卓郎の話だ」
俺は息を呑む。
「……そうなのか?」
「そう、とは?」
「お前にも視えるのか?」
拳を握る。声が震えた。
彼は力強く俺の両肩に手を置いた。
「君を助けたい」
「……助けて、くれるのか……」
彼は声を張り上げた。
「みんな! 古屋さんが体調悪いらしいから、保健室に行ってくる!」
そうして、彼に手を引かれるまま教室の外に出た。
