視える系男子・古屋和弥は解かれたい

 俺はこの高校に入学してすぐ、それらの突然死が悪霊の仕業だと気が付いた。
 ――どす黒くて、まがまがしい手を視たからだ。
 右手、次は右手、そして次は左手、次は右手……。
 不規則に出現したり、しなかったりするその手は間違いなく犠牲者たちが倒れた十字路から生えている。
 入学して早々、入学したことを後悔した。しかしもう遅い。
 俺はいつものように視て視ぬふりをした。そうするしかない。

 そうして過ごしていた高校1年生の秋、2024年9月20日金曜日。
 ちょうど朝のHRが始まる10分前で、生徒たちの多くが校舎に向かっていた。
 そこで、俺は視てしまった。

 ――そこにはどす黒い両手が生えていた。

 手の悪霊がいることはこの学校において特別なことではない。
 しかし、両手が揃っているのは初めて視た。
 全身が粟立ち、心臓がバクバクと音を立てていた。なにかが起きる気がした。それも嫌なことが。
 硬直する俺の前で、そのどす黒い手はゆらりと動いた。
 手の平に埋め込まれた水晶体はぎょろぎょろと動き、俺の前を行く男子生徒を見つめている。
 それが、他の人の目にどう映ったのか、俺は知らない。
 ただ、俺の目には悪霊の両手が十字路の真ん中で花のように開き、彼がそこに足を踏み入れた瞬間、右手と左手が勢いよくあわせられたのを見た。
 パン、と乾いた音が響く。
 そこからは、すべてがスローモーションのようだった。
 手の悪霊が霧散して、男子生徒の体が見える。
 その体は均衡を崩す。
 彼の見開かれた目がぐるりと周り、口がだらしなく開かれ、助けを求めるように伸ばした手が空を掻いた。

 ――彼の体は静かに赤いシミの上に横たわった。

 どさりと重たい音がして、やっと周囲が異変に気がついた。
 叫ぶ者、助け起こす者、教師を呼びに行く者――。
 混乱の中、俺は縫い留められたようにその場に立ち尽くしていた。
 手の悪霊が目玉を動かして――俺を見つめていたからだ。
 目の下にある口がゆっくりと動き「次はお前だ」と声が脳内に響いた。

 それから俺は朝学校に来るとまず門から手の悪霊がいないことを確認して、いたら引き返し、いなかったら安堵する日々を送ることになった。
 俺の目の前で死んだ男子高校生は羽島卓郎という高校2年生だったらしい。
 彼が死んだ日は両手が揃っていた。
 俺も両手が揃った日に殺されるのかもしれない。

 しかし、恐怖から片方でも手の悪霊が現れている日は学校に入らないようにしている。
 勉強にも身が入らず、おまけに欠席が続けば単位がとれずに留年になる。
 俺はこの状況を誰にも言えないでいた。
 ――俺がひとりでなんとかするしかない、と思っていた。