――俺には人には視えないものが視える。
初めてそれを視たのは小学3年生の時だった。
それは通学路に立っていた。
顔が黒くて、髪が長くて、目がなくて、口が3つあって、手の指が地面につくほど長い。
俺は怖くなって来た道を引き返し、家に帰って毛布を被った。
両親は怯える俺を見て、首を傾げるばかりだった。
3日後、恐る恐るその場所へ行くと、それはもう消えていた。
俺は深く安堵した。
しかしそれは始まりに過ぎなかった。
それ以来、俺はそれをたびたび視るようになった。
学校で、スーパーで、習い事の教室で……。
俺はそれを視るたびに悲鳴をあげて大人を心配させた。
それの姿は幽霊と呼ぶには醜悪で、化け物と呼ぶには人の形に近かった。
異常に身長が高かったり、胴が丸かったり、手足が6本あったりする。
自然と、俺はそれを悪霊と呼ぶようになった。
悪霊は電信柱の影や、木の下や、ショーウィンドウの中など、たくさんではないが、どこにでもいる。
俺はそれが怖くて両親に助けを求めて泣いたものだった。
いつも両親は「そんなものは存在しない。大丈夫」と笑っていた。
「でも、本当にいるんだよ。視えるんだ」
何度かそう訴えると、父親に「いい加減にしろ」と怒鳴りつけられた。
俺はだんだん明るさや活発さを失っていった。
俺は視えないふりをして暮らした。
そんな俺に、親友と呼べる存在ができた。
小学5年生になっていた俺はその子にだけ悪霊のことを打ち明けることにした。気になることがあったのだ。
「お前の後ろに悪霊がいるよ。一昨日は指を3本立ててて、昨日はピースしてて、今日は1本指をあげてて。なんだろう? カウントダウンをしているみたいだ。明日0になるから、気つけた方がいいかも」
しかし、悪霊の話は彼には刺激が強かったらしく、彼はその場で泣き出してしまった。
「和弥が変なことを言う」
彼が騒いで、俺の発言は学級会で取り上げられ、みんなにくすくすと笑われるハメになった。
しかし翌日、彼が登校中に上からふってきた看板の下敷きになって大けがをしたことで、みんなの反応は一変した。
朝、教室に入ると、みんな怯えた目で一斉にこちらを見た。
その目が語る「古屋和弥は不気味なやつだ」と。
俺は疲れてしまった。
いよいよ、俺は孤独になった。
そんな俺だったが、勉強はそこそこできた。
中学では友達ができず、ずっと図書室にいた。
高校進学のときには、地元のクラスメイトから離れたいという俺の思惑と、進路実績を作りたい中学側の思惑が一致して、家から1時間半かかる進学校に入学することになった。県内で一番の進学校で、なぜか毎年生徒が大怪我をする高校――。
最初の被害者が出たのは今から5年前、2020年のことだった。
当時高校3年生の生徒が死んだ。
心臓発作だった。調べたところによると、登校中に倒れ、助け起こされた時にはもう死んでいたのだという。
生徒が倒れたのは、高校の敷地内のちょうど真ん中、4つの東西南北の門からの道がぶつかる十字路である。
そこのアルファルトには消えない赤いシミがある。犠牲者は、そのシミの上に重なるように死んでいた。
翌年、そしてその翌年も似たような死が続いた。
俺が入学する前年である2023年7月5日には米原玲那という女子生徒が死んだ。
朝、登校中、十字路のシミの上で、それまで健康だったはずの生徒の突然死。
テレビや新聞に取り上げられるようなニュースにはならなかったが「あの場所はなにかおかしい」と生徒たちの間で噂された。
初めてそれを視たのは小学3年生の時だった。
それは通学路に立っていた。
顔が黒くて、髪が長くて、目がなくて、口が3つあって、手の指が地面につくほど長い。
俺は怖くなって来た道を引き返し、家に帰って毛布を被った。
両親は怯える俺を見て、首を傾げるばかりだった。
3日後、恐る恐るその場所へ行くと、それはもう消えていた。
俺は深く安堵した。
しかしそれは始まりに過ぎなかった。
それ以来、俺はそれをたびたび視るようになった。
学校で、スーパーで、習い事の教室で……。
俺はそれを視るたびに悲鳴をあげて大人を心配させた。
それの姿は幽霊と呼ぶには醜悪で、化け物と呼ぶには人の形に近かった。
異常に身長が高かったり、胴が丸かったり、手足が6本あったりする。
自然と、俺はそれを悪霊と呼ぶようになった。
悪霊は電信柱の影や、木の下や、ショーウィンドウの中など、たくさんではないが、どこにでもいる。
俺はそれが怖くて両親に助けを求めて泣いたものだった。
いつも両親は「そんなものは存在しない。大丈夫」と笑っていた。
「でも、本当にいるんだよ。視えるんだ」
何度かそう訴えると、父親に「いい加減にしろ」と怒鳴りつけられた。
俺はだんだん明るさや活発さを失っていった。
俺は視えないふりをして暮らした。
そんな俺に、親友と呼べる存在ができた。
小学5年生になっていた俺はその子にだけ悪霊のことを打ち明けることにした。気になることがあったのだ。
「お前の後ろに悪霊がいるよ。一昨日は指を3本立ててて、昨日はピースしてて、今日は1本指をあげてて。なんだろう? カウントダウンをしているみたいだ。明日0になるから、気つけた方がいいかも」
しかし、悪霊の話は彼には刺激が強かったらしく、彼はその場で泣き出してしまった。
「和弥が変なことを言う」
彼が騒いで、俺の発言は学級会で取り上げられ、みんなにくすくすと笑われるハメになった。
しかし翌日、彼が登校中に上からふってきた看板の下敷きになって大けがをしたことで、みんなの反応は一変した。
朝、教室に入ると、みんな怯えた目で一斉にこちらを見た。
その目が語る「古屋和弥は不気味なやつだ」と。
俺は疲れてしまった。
いよいよ、俺は孤独になった。
そんな俺だったが、勉強はそこそこできた。
中学では友達ができず、ずっと図書室にいた。
高校進学のときには、地元のクラスメイトから離れたいという俺の思惑と、進路実績を作りたい中学側の思惑が一致して、家から1時間半かかる進学校に入学することになった。県内で一番の進学校で、なぜか毎年生徒が大怪我をする高校――。
最初の被害者が出たのは今から5年前、2020年のことだった。
当時高校3年生の生徒が死んだ。
心臓発作だった。調べたところによると、登校中に倒れ、助け起こされた時にはもう死んでいたのだという。
生徒が倒れたのは、高校の敷地内のちょうど真ん中、4つの東西南北の門からの道がぶつかる十字路である。
そこのアルファルトには消えない赤いシミがある。犠牲者は、そのシミの上に重なるように死んでいた。
翌年、そしてその翌年も似たような死が続いた。
俺が入学する前年である2023年7月5日には米原玲那という女子生徒が死んだ。
朝、登校中、十字路のシミの上で、それまで健康だったはずの生徒の突然死。
テレビや新聞に取り上げられるようなニュースにはならなかったが「あの場所はなにかおかしい」と生徒たちの間で噂された。
