視える系男子・古屋和弥は解かれたい

 俯いて黙り込んでしまった俺に、彼は急かすように言う。
「ほら、これが種目一覧だ」

 差し出された表を見る。
 リレー……パス。ムカデ競争、論外。
 どんどん目線を下へ下へと移動させていき、ある種目で目を止めた。

「モルック?」
 俺は首を傾げた。
「どんな種目?」
「よくぞ聞いてくれた」
 彼は両手を広げ、胡散臭い訪問販売員のようにつらつらと説明しはじめた。

「モルックはフィンランド発祥の老若男女が平等に競技できるスポーツなんだ。簡単なルールと適度な運動量を特徴としていて、なにを隠そう、生徒会役員でもあるこの僕が新種目として導入したんだ。簡単に言うなら、ボーリングの球を転がさずに投げるといったところか。なんといっても、運動が苦手な生徒もクラスの勝利に寄与できる。――君もモルックにするか?」
「難しい?」
「簡単だ」
「人気がある種目?」
「僕の予想では、体育祭の人気種目はリレーやパン食い競争だろう」
「じゃあ、モルックにする」
 結局どんな種目なのかわからないが、難易度が低くて、目立たない種目ならなんでもいい。

「体育祭は6月28日土曜日だ。その日なら、君は学校に来るだろう? 頑張ってくれよ。我がクラスの勝利のためにな」
「……うん」
「じゃあ、話は決まりだ。これにサインを」
 万理くんは笑いながら俺に紙を一枚突きつける。
「何、これ」
「委任状だ。もし希望の種目が人気でじゃんけんで決めることになった場合、僕が代わりにじゃんけんをする。もし他に委任先があるならそっちの名前を書いてもいい」

 たかが体育祭の種目決めに委任状。
 おっかなびっくりそれを受け取る。
 見ると、確かに『委任状』というタイトルの後に体育祭の種目決めのじゃんけんについて甲は乙に一任すると書いてある。
「……もしかして、万理くんがわざわざ作ったの?」
 そう問うと、彼はまた胸を叩いた。
「僕が学級委員長を務めている間、クラスではできる限り平等に物事を決めるべきだと思っている。君の意思だってちゃんと尊重する」
「はぁ……」
 くすぐったいような、めんどうくさいような。
 複雑な気持ちのまま、委任状にサインをする。どうせ他の委任先などない。

 万理はサッと委任状を受け取るとご丁寧にそれをファイルに入れてから立ち上がった。
「では、そういうことで。ああ、でも、僕がじゃんけんに負けても恨みっこなしだぞ。負けたら、適当に人が足りない種目に入れるからな。それは仕方ない。公共の福祉だ。結果は明日黒板に張り出しておくからそれを見て確認してくれ」

 そうして、彼は去った。俺は呆然と彼が座っていた椅子を見つめた後、また力なく机に突っ伏した。

(なんだったんだ)
 嵐のような人だった。
(なんで俺が明日休むって言い切れるんだよ……)

 確かに、俺は休みが多い。
 しかし、ズル休みをしているわけではない。
 本当に、どうしようもない事情――悪霊のせいで休んでいるのだ。
 俺は歯噛みした。

(俺の事情なんて、何も知らないくせに)

 ああ、もうめんどくさい。
 諸々言いたいことを飲み込んで、俺は目を閉じた。