視える系男子・古屋和弥は解かれたい


 その日、俺は家に帰ってもその転落事故の謎が気になって仕方がなかった。
「あー……勉強なんて身に入らないよ」
 俺は勢いよく教科書を閉めると、そのままベッドに倒れ込んだ。
 時計の針はちょうど0時を示している。

 今日も母は家にはいないが、勉強の進捗を尋ねるメッセージが届いている。
 テスト期間の高校生としては、このまま寝るか、もしくは勉強を続けるかの2択だろう。
 しかし、俺はスマートフォンを取り出した。
「そもそも……悪霊がどうやって転落させているんだ?」
 そうして、俺は検索フォームにショッピングモールの名前と転落死という単語を入力した。
 そのニュースは、簡単に見つけられた。
「あ、これか。日付は、一昨日……」

――13日午前7時40分ごろ、霧崎市中央区のショッピングモール駐車場で「人が倒れている」と従業員から119番通報があった。倒れていた男性は市内の病院に搬送されたが、約1時間後に死亡が確認された。
霧崎署によると、死亡したのは霧崎市在住の会社員、下原勝己さん(29)。
下原さんはショッピングモール屋上駐車場から転落したとみられ、県警は事故と事件の両面で調べを進めている。
同施設では昨年にも男性が屋上から転落して死亡しており、県警が関連を調べている――

 ニュースの下には、続報のリンクが張り付けられている。

――13日、霧崎市中央区のショッピングモール駐車場で男性が転落し死亡した事故で、県警は14日、防犯カメラの映像などから事故と断定した。
県警によると、男性は自ら屋上駐車場のフェンスを乗り越える様子が確認されており、事件性は低いと判断したという。
同施設では過去にも同様の転落事故が複数発生しており、運営会社はフェンスの増設など再発防止策を急ぐとしている――

 俺はそのニュースを3回ほど読み直したあと、つぶやく。
「自分でフェンスを乗り越えて……落ちた……。なんでだ?」
 俺は眉根を寄せた。
「被害者が悪霊に操られていた、とか……?」
 そんなこと、あるのだろうか。
 あるとするのなら――。
「どうやって……?」
 悪霊が人を操れるとして、どうやって操るのだろうか。そもそも、どうやって被害者を選定するのか。
 操って、それでなぜ転落なのか。
 何を推理しても、仮想の上に仮想を重ねていくだけだ。
 まるで子どもが無計画に重ねた積木みたいだ。
 ふっと息を吐くだけで崩れ去る。
 俺は頭を掻きむしった。
「なにもわからないや」
 考えれば、考えるほど、わからない。

 俺はスマートフォンを投げ出した。
「安城はどこまで推理できてるんだろ……」
 何度かメッセージを送っているが、返事がない。
 別れ際の、彼のあの晴れやかな顔。
「謎が解けたって顔だったぞ」
 だとしたら、非常にまずい。
 彼が先に解いたら、俺はこのまま安城の怪しげな同好会に入会させられてしまう。

 俺は手足をばたつかせた。
「あー! とにかく情報が足りない!」
 そうしてまたスマートフォンにかじりつく。
 今度は去年の、そしてまたその前、と、この怪異をさかのぼっていく。
 そうしてニュースを読みあさっていると、ふと見覚えのある文字が目に飛び込んできた。
「あれ」
 俺は固まった。
「安城……?」
 俺はその文字に目を瞬かせた。
 それから、安城が、バス停で俺が事件の情報を調べるのを制止した理由が、わかった気がした。