そのショッピングモールはどこか寒々しい印象があった。
国道沿いでバス停が近く、少し歩けば私鉄の駅もある。
それほど恵まれた立地だというのに、そのショッピングモールに人影はまばらで、駐車場には空きが目立つ。
俺は色が薄くなった看板を見上げる。
幼い頃、両親とここに来たときは、もう少し活気があった気がしたが。
中に入ると、その印象はさらに強くなる。
広くて白い空間に、シャッターの群れ。
かつてはイベントが行われていたはずの中央の広場は閑散としている。
いくつかまだ営業を続けている店も、店先に“閉店セール”の文字を掲げている。
なんとなく、店員も元気がない。
彼らはインカムをつけて退屈そうに店先に立っているだけだ。
「なんか、廃墟一歩手前って感じだな……」
俺が言うと、安城が肩をすくめた。
「しかたないだろう。死人が6人も出ているんだ。ショッピングどころではないさ」
「そっかぁ……」
俺たちは広いモールを歩いて回った。
ショッピングモールのマスコットキャラクターは人魚をモチーフにしたものだった。
明るくポップな色使いのそれは、こうも活気がない場所では浮いて見えた。
「このキャラクター……よく見かけるけど、このショッピングモールのだったんだな」
俺がポスターに描かれたそれをまじまじと見つめながら言うと、安城が怪訝そうに尋ねる。
「このショッピングモール以外でこのキャラクターを見たことなどないが?」
「えー? ほら、マンホールにもいるだろ、このキャラ」
「君、霧崎市のマスコットである人魚のキララちゃんと混同していないか」
俺は目を瞬かせた。安城の口からそんなファンシーな響きが出ると思っていなかった。
「なにそれ……」
安城はさらにそのファンシーな響きを繰り返す。
「人魚のキララちゃんだ、キララちゃん」
そうして彼はスマートフォンの画面を見せてきた。
そこに映し出されているのは、人魚をモチーフにしたマスコットキャラクターだ。
俺はそれを見た。しっかりと見た。
そして言う。
「……そっくりじゃん」
どちらも魚の下半身と、丸太のような上半身、そして大きな唇とまん丸の目に鮮やかな髪色のキャラクターだ。
しかし安城は引き下がらない。
「よく見ろ。人魚のキララちゃんの方は尾ひれが海獣のものだ。ここのモールのマスコットは魚類の尾ひれだ」
「……わかんないよ」
「なぜわからんのだ。まったく」
「なんでそんなに詳しいのさ?」
「地元のキャラクターを愛さない住民がいるのか?」
「……なんか、もう……。……わかんないや」
困惑する俺をよそに、安城は得意げに説明する。
「霧崎市には人魚伝説がある。だから人魚をモチーフにしたキャラクターが多いんだ」
「人魚伝説って?」
彼は片眉を上げる。
「なんだ、君、小学校の授業で習わなかったのか」
「俺、小学校このへんじゃないし」
安城は「ああ……」と言って、それから説明を続ける。
「人魚の歌声につられて海に出ると、海に引きずり込まれてしまう、という話だ」
「へぇ……。意外。安城、そういうの信じるんだ?」
「信じてはいない。ただ市のマスコットキャラクターは愛している。住民として」
「……はぁ」
くだらない話をしているうちに、1階を一通り回りきってしまった。
安城が尋ねる。
「それで、悪霊は?」
俺は首を振る。
「いまのところは、いない」
「気配は?」
俺は眉根を寄せる。
「そんなもの、感じたことないよ。視えるだけ」
「なんだ、そうなのか」
「霊媒師じゃないんだよ」
「霊媒師は感じられるのか」
「知らないよ」
安城はこのショッピングモールの構造をよく知っているのか、迷うことなくエスカレーターへ向かうと、そのまま2階に上がる。
2階一部吹き抜けになっていて、そこから1階全体を見渡すことができた。
俺は手すりに顎を載せてつぶやく。
「いないなぁ」
「よく探せ」
「ほんとうに転落事故は偶然なのかもよ。ほら、よく交通事故が起きる交差点ってあるじゃん」
「交通事故が起きる交差点は、見晴らしが悪かったり交通量が多かったりと、事故を誘発する要因がある」
「今回も、どこかにそんな要因があるのかも」
俺の適当な言葉に、安城は首を振る。
そして彼は上に続く階段を指さした。
そこはチェーンがかけられ、真ん中には立ち入り禁止と大きな看板が出されている。
安城は言う。
「最初の転落事故以来、屋上には上がれないようになっている。最初のひとりはともかく、残りの5人は何の用があって屋上へ行ったんだ?」
「……うーん」
「この場合、悪霊に屋上へと誘われた、と考えることができないか?」
「誘う……。どうやって……?」
「それはまだわからない」
俺は立ち入り禁止の看板を睨みつける。
「みんな、屋上から落ちたんだよね?」
「そうだ」
「なら、屋上を見ないと意味ないよな」
俺が言うと、安城は待っていたとばかりににやりと笑った。
「その通りだ。ついてくるといい」
