視える系男子・古屋和弥は解かれたい

「同好会に入るかどうかを決めるから、ついてこい」
 そう安城に言われて、俺は彼と連れだって校門をくぐった。
「それで? どこに行くんだよ?」
 安城が口を開く。
「ひとまず、バス停に行く」
「バス停?」
「ニュースは見たか?」
「ニュース? なんの?」
 安城は指を1本立てる。
「国道沿いのショッピングモールで転落事故があったそうだ」
「転落事故……?」
「しかも、この10年間で6件目だ」
 ショッピングモール、転落事故……。
 しかし、それらが安城の言う“同好会に入るかどうかの話“とどうしてもつながらない。
「ええと?」
 頭の上に疑問符を飛ばす俺に、安城は言う。
「この事故は――悪霊の仕業だと思わないか?」
「悪霊……」
 俺は足を止めた。

「もしかして、いまからそのショッピングモールに行こうとしてる?」
「そうだ」
「なんのために?」
 安城はちらりと俺を見て、それから腕を組んだ。
「次は負けない」
「……えーと?」
 俺は頭の中で情報をかき集める。
 安城は俺と同好会に入るかどうかの話がしたくて、いまから悪霊のいると思われる場所に行こうとしていて……つまり――。
「もしかして、お前、俺と推理対決したいとか、言わないよな?」
 安城は顎を突き出した。
「それのなにが悪い?」
「はぁ!?」
「とにかく、いまからそのショッピングモールに行く。悪霊がいるかどうか確認しろ。もし悪霊がいたら――白黒はっきりつけようじゃないか」
 俺は頭を押さえた。
「悪霊だぞ? 遊び半分で関わると危ないんだぞ。お前だって知ってるだろう? うちのあのエレベーター……ぺしゃんこになって、まだ復旧してないんだぞ。危険すぎる」
 安城は鼻で笑う。
「なにを言う。君だって、もう知っているだろう? 悪霊は不規則に被害を出すわけではない。関わってすぐに危険があるという性質のものではないことは明らかだ。こういうものは、正しく怖がることが大事だ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「それとも君は、これからも悪霊の犠牲者を出したいのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
 俺は安城を睨みつける。

 俺だって、止められる悪霊がいるなら、止めたい。しかし。
「一応、いまテスト期間だぞ? 勉学は学生の本分じゃないのか?」
 テストまでもう残り4日しかない。
 安城は鼻で笑う。
「残り4日というときに、闇雲に勉強しても無駄だ」
「それはそうかもしれないけどさぁ……」
「勝負にのるというなら、僕のノートを貸してやろう」
「それは前無料で貸してくれるって言ってたやつじゃん……報酬としてどうなんだよ」
「この僕の、テスト問題予想解説付きだ」
「……のった」
 俺はすぐに手を叩いた。
 全国模試1位の安城万理の予想は、ものすごく当たるらしい。

 バス停までたどり着くと、俺は改めて安城に尋ねた。
「それで、その転落事故っていうのは?」
 安城は皮肉交じりに応える。
「呆れた。君が後生大事に持っているスマートフォンという道具は、ゲーム機以外の使い道もあるんだぞ」
「俺はスマホでゲームはしない派。でも、言いたいことはわかったよ」
 調べようとしてスマートフォンを取り出すが、安城に制される。
「なんだよ」
 彼は首を振る。
「やっぱり、いい。僕が説明しよう」
「はぁ?」
 俺の不満の声を無視して、安城は腕を組んで淡々と説明をはじめる。
「ショッピングモールの屋上駐車場から10年間で合計6人が転落死している。全員、まったく同じ場所から、な」
「落ちやすい構造なのか?」
「落ちた人間はみな、店側が安全対策として増やしたフェンスを自分でよじ登ってる姿が防犯カメラに捉えられている」
 俺は目を瞬かせた。
「それって、自殺じゃないのか?」
「少なくとも、遺書は1通も遺されていない」
「遺書がない自殺もあるだろ」
「だとしても、同じ場所から6件は多すぎる」

 俺は黙り込んで顎を撫でる。
 安城が覗き込んでくる。
「悪霊が関わっていそうな話だろう?」
 俺は苦々しく言う。
「それは、そうだけど」
「けど、なんだ」
「10年で6件って、法則性なんてあるのか?」
 俺が尋ねると、安城は口角を上げた。
「それは黙秘する」
「は?」
 彼は胸を張る。
「これは法則を見つけるひらめきや知識を競う勝負だ。――敵に塩は送らない」
「はぁ……」
 なんというか。
 フェアというか、徹底しているというか。
 呆れかえる俺のもとに、バスがやって来た。
 俺は無言のままそのバスに乗った。