「そうだったか? ああ、まあ、そうだったような。まあ、いい。ほら、説明をしてくれ」
彼は腕を組んで続きを促す。
俺はノートを取り出すとそこに長方形を描き、縦線と横線を描き入れて5×13のマスをつくった。
「俺の住んでいるマンションは5階建てで、部屋は1階に13部屋ずつ。入口が東側にあって、入り口に近い方から101号室、102号室って並んでる。2階は201号室ってかんじ。……悪霊は最初、マンションのドアの外だった。でも、次に視たときは101号室の前に立ってた」
「それはいつか覚えているか?」
「101号室の前に立っていたのは、5月19日月曜日」
「間違いないのか?」
「……うちのマンションのエレベーターが壊れていて、悪霊を初めて視たのは、エレベーターが壊れた次の日だったんだ。マンションの掲示板に、エレベーターが壊れたことについてお知らせが貼ってあるから、日付は間違いないと思う」
「……なるほど」
「その日は、エレベーターが壊れてるから、階段を使ったんだ。それで、階段をおりてすぐのところに悪霊がいてびっくりしたんだ。階段からだと、玄関が並んでいるまっすぐな廊下が必ず見えるんだよ」
「……」
安城は顎に手を置いて、眉根を寄せる。
「安城?」
俺が名を呼ぶと、彼は呆れたようにため息をついた。
「……君は学校の悪霊に悩まされながら、家の悪霊にも悩まされていたというわけか? ……多難な人生だな」
俺は苦笑をもらして、それには応えずに説明を続けた。
「悪霊って、意外とどこにでもいるからさ。ええと、それで、その悪霊を視ても、ああ、マンションに入ってきたなぁって思っただけだったんだよ。だけど、その日、家帰ったら、マンションに警察が来ていて……」
「警察?」
「うん。101号室のリビングに首を切られた人の絵が描いてあったんだって。……噂だから、俺が見たわけではないけど。でも、警察が来ていたのはたしかだよ」
「そのとき悪霊は?」
「いたよ。101号室のドアの前にずっと」
言葉を切って安城を見る。彼が怖がるかと心配した。
しかし、彼は「それで」と冷静に聞いてくる。
「次の日の朝になったら、悪霊は隣に移動していた。つまり、102号室の前」
「そこでは何が?」
「その日は何も起きなかったんだよ」
でも、と俺は言葉を続ける。
「次の日になったらまた隣の103号室の前に移動していて、ドアのところにある郵便受けに動物の死骸が入ってたらしい」
「それは見たのか?」
「うん。その、ええと、そのころ手の悪霊が怖くて始発で学校に通っていたからさ。もしかしたら、俺が第一発見者かもな。怖くて、視なかったことにしてそのまま学校に行ったんだけどさ」
安城はつまらなそうに尋ねる。
「で、次の104号室ではなにも起きず、次の105号室で異変が起きた、と交互に続くのか?」
俺は首を振る。
「いや、それがさ、次の日の104号室も、その次の105号室も、悪霊はドアの前に移動しているけど、なにも起きなかったんだよ」
「ふむ」
彼は目を閉じて思考を巡らせ始める。
少しだけ彼が乗り気になってきたのを感じて、俺の体は自然と前のめりになる。
「次に異変が起きたのは106号室。夜中に水漏れが起きて、1階の廊下全部水浸し。そして次は111号室。夜中の2時ごろだったと思うんだけど、パトカーの音がして目を覚まして……111号室のバルコニー側に車が突っ込んできてた」
安城はできの悪い映画を観たように乾いた笑いをこぼした。
「それはまた豪快だ」
「笑いごとじゃないよ」
「けが人がいたのか?」
「バルコニー側はリビングで、夜中だからそこには誰もいなかったらしい。運転手も無事。居眠り運転ってことになっているけど、もともと交通量の少ない道路で、見通しもいいし、それに突っ込むっていってもバルコニーは道に平行になってるのに、絶対におかしいだろ……そもそも」
俺の言葉を安城が「次」と言って遮る。俺は話を戻す。
「悪霊は113号室まで行ったら、次は2階にあがってきたんだ。201号室からまた隣に1部屋ずつ移動して、次に異変が起きたのは206号室。真夜中に、そこの住民がバルコニーから落ちた。本人は酔っていたって話。でも夜中に救急車が来て、大騒ぎだった。骨折で済んだって話だけどさ」
耳の奥にそのときのサイレンの音がこびりついているようだった。
俺は顔をしかめながら続ける。
「2階はこれで終わって、次は3階の306号室。ここでは火事。すぐに消し止められたから、大きな被害はなかったけど」
5×13のマンションを模した図をボールペンで叩き、被害があった部屋にあたる箇所に星印を書き込む。
101号室、103号室、106号室、111号室、206号室、306号室……。
