視える系男子・古屋和弥は解かれたい


 放課後、俺は安城と数学準備室で待ち合わせていた。
 なんでも、その部屋を生徒の署名を管理するという名目で借りているそうだ。
 俺は高校にそんな部屋があることを今日はじめて知った。
 そこはふつうの教室の半分くらいの広さで、黒板用のマグネットがついた大きな三角定規や大きな時計、大きな円柱などの模型が置いてある。俺たちの高校では全員にタブレットが配布され、また教室内もすべて電子黒板になっているから、そこにあるものはすべて今まではもう使われない道具たちということだ。
 机と椅子はどれも古びて、ぎしぎしと音を立てた。
 安城に先に行くように言われて手持無沙汰な俺はそれらの物品を退屈そうに眺めて時間をつぶした。

 約束の時間ぴったりに安城はやってきた。手には大きな木の板を抱えている。
「なんだ、それ?」
 尋ねると彼は「おっと」と言ってその板を掃除道具を入れるロッカーの中に隠してしまった。
「なに?」
「まあ、いろいろだ。同好会を作る予定でな」
「同好会?」
「そう。これはその看板だ。同好会が立ち上がった暁にはこの部屋を部室として借りるつもりだ。少し気が早いが、この看板はここに一時保管しておく」
「へぇ……精力的だね」
「短い高校生活だ。やりたいことをしておくべきだ。……さて、君の話を聞こうじゃないか」
 彼は適当な椅子を引いてきて俺の向かいに座った。
 俺は力強く頷いた。

 安城が尋ねる。
「それで? 君の住んでいるマンションはどこにあるんだ?」
「木曽根駅のすぐ近くなんだ」
「木曽根駅?」
「知ってるのか?」
 彼は眉を顰める。
「知っている。遠すぎるだろう……」
 呆れたような声。
 そうだろう。
 学校から木曽根駅までは1時間半はかかる。
 進学するときに、地元から離れたい一心で遠くの高校を選んだのだ。

 俺は慌てて顔の前で手を振った。
「木曽根駅までの安城の電車代は俺が払うよ」
「いや。いい。わざわざ行く必要はない。行ったところで、どうせ僕にはなにも視えない」
 そう言って、彼は窓の外に目をやる。
 数学準備室は3階にあって、窓からは例の十字路――俺の命を狙っている手の姿をした悪霊の棲家――がちょうど視える。

 万理は頬杖をついて、興味なさそうに尋ねる。
「今日も手の悪霊はいるのか?」
「今日は休みの日だよ」
 手の悪霊は右手が17日おき、左手が13日おきに現れ、両手が揃った日に人を殺すという法則がある。
 これは万理が見つけた法則だ。
 彼が見つけてくれたおかげでいまこうして私は学校に通えるようになったのだが、彼にとっては大した発見ではないらしい。
 この話は「そうだったか」と軽く流されてしまう。