視える系男子・古屋和弥は解かれたい


 しかしそう思っていてもいま頼れるのは彼しかいない。俺は顎に手を置いた。
「仕組みの穴……」
 俺は考える。
 数学に苦手意識はないが、どうも頭がうまく回らない。
 安城は子どもに掛け算を教えるかのように言う。
「まず、4人目の犠牲者である米原玲那が死んだのはいつだ?」

 頭を捻る。
「えっと、たしか2023年7月5日……?」
「なら、次に羽島拓郎が死んだのは?」
「2024年9月20日……あれ? 221日って、30で割ったら……」
「7か月と半分だな」
「米原先輩と羽島先輩の死が221日おきになってないぞ……?」
「その通り。2023年7月5日の221日後は2024年2月11日だ」
「ええ?」
 わけがわからない。さきほどまで説明していた話とちがうではないか。

 困惑していると、安城は笑う。
「2月11日は建国記念の日だ。学校は休み――つまり、手が届く範囲にいなければ助かるということだ。それで羽島拓郎は1回分命拾いして、さらに221日後の9月20日に死んだというわけだ」
「そんなの、わかんないだろ」
 とっさに反論する。
 俺にとって、悪霊は人智を超えた存在だった。こんなに簡単にすり抜けられるというのが信じられない。

 しかし安城はおもしろそうに笑う。
「じゃあ尋ねるが、羽島卓郎が死んだ9月20日の221日後はいつだ?」
「ええと、だいたい7か月と半月あとだから4月……? あれ?」
 今日は2025年6月9日だ。俺は頭を後ろから殴られたような衝撃をうけた。
「過ぎてる……?」
 俺が呆然とつぶやくと、安城は力強く頷いた。
「そう。君が殺されるのは4月29日のはずだった」
「なんで生きて……?」
「簡単だ。その日はなんの日だ?」
 頭がちっとも回らない。しかし、4月末から5月頭にかけてあるものといえば――。

「……ゴールデンウィーク」
「そう。4月29日は昭和の日だ。学校は休みだった。命拾いしたな」
「ほんとうに……?」
「君はほんとうに幸運だ。次に両手が揃うのは2026年1月4日日曜日だ。また休みだな。うまいこと休んでそのまま卒業してしまえばいい。おそらく近年の5人の犠牲者の前にターゲットになった人物も、そうして逃げおおせて、どこかで寿命かなにかで死んで、それでまたターゲットが在校生にもどってきたんだ。君が長生きすれば、そのぶんだけ未来の後輩の命を救えるぞ」

 おびえ続けていた悪夢が、俺から遠ざかっていくのを感じる。
 安城は俺の背中を叩いた。
「ほんとうは殺人マシンを止めるべきだが、いまの手がかりではこれ以上はわからないな。それは追い追い考えていこう」

 呆然としていると、安城が手を叩いた。
「ひとまず一件落着、ということでいいか?」
「え、あ……ああ。ありがとう」
「どういたしまして」
 彼の態度があまりにもふつうなので、俺はおずおずと尋ねた。
「俺のこと、不気味じゃないか?」
「不気味とは?」
「だって、変なものが視えるし……」
「そんな些末な違いで僕は人を差別しない。人間は平等だ」
 胸がどきりと跳ねた。

 ――些末な違い。

 まさにそれで長らく苦しめられ、孤独にさいなまれてきたというのに。彼はそれを一言で片づけてしまった。
 彼はうつむいた俺を覗き込む。
「僕は君の恩人というわけだ」
「そうなるな」
 彼がにやりと妖しく笑うので、こみあげてくる熱いものが引っ込んでしまう。嫌な予感がしなかったといえば嘘になる。
「では、次は僕を助けてくれないだろうか」
「もちろん。俺にできることなら……?」
 俺の予感は、だいたい当たる。