視える系男子・古屋和弥は解かれたい

 安城は得意げに言う。
「羽島卓郎が死んだのが2024年9月20日、その後、君は10月3日、7日、16日、24日、29日。11月10日、11日、24日、27日、12月7日、14日、20日、31日と休んだはずだ」
 俺は目を丸くした。
「……全部覚えているか?」
 彼は首を振る。
「まさか」
「じゃあ……?」
「法則性があるから、その通りに読み上げただけだ。日曜日や長期休暇もはいっている」
「法則性?」
「わからないか?」
 そう言われても、わからない。
 俺が首を振ると、安城はまた得意げに続ける。

「僕は4月から君の欠席が気になって、すぐ気が付いたぞ。……こないだの土曜日に見た手の悪霊は右手か? 左手か?」
「左手だけど」
「じゃあ、その前、6月2日に見たのは右手だな」
「……多分、そうだけど。別に交互と決まっているわけじゃないんだぞ。右手を見て、また次も右手のこともあるんだ」
 安城は俺の指を一本立てる。
「右手は17日おきに、そして左手は13日おきに現れているんだ」
「え?」
「法則通りに動いていて、おまけにターゲットも特にその悪霊の恨みを買っているわけでもない。つまり、意志がない。君が言うところの悪霊というのはただの殺人マシンだ」

 ――殺人マシン。

 それは奇妙な表現に思えた。しかし安城は淡々と続ける。
「法則というのは必ず必然性をもつ。設置型の殺人マシンがよく機能するためにはそんなに頻繁に殺人が起きてはならないんだ」
「どういうことだ?」
「そんなに頻繁に殺人を起こしたら、流石に不審に思われるだろう。悪霊は地面から生えていて、動けない。人が近づいて来なくなったら困るから、頻繁に殺さず、それでいて適度に殺せる法則を見出したんだ。……素数だ」
 安城は何度も頷く。
「全ての説明に辻褄が合う。君、素数セミって知っているか?」
「素数セミ? なんだそれ」
「セミが素数の年に大量発生するようになっているんだ。ある種は13の倍数の年、また別の種は17の倍数の年に大量発生する。13と17は素数だ。するとどうなると思う?」
「あのさ!」
 たまらず、俺は安城の言葉を遮った。

「セミの話はいい。俺はどうなるんだ? 助かるのか?」
 安城はため息をつく。
「話は最後まで聞き給え。13と17の公約数は221だ。つまり、221年に1度しか同時に発生しない。それによって、餌の奪い合いも交雑も起きないというわけだ。これは自然に生み出された法則なんだ。アメリカの学者が発見した。――この悪霊も同じだ。右手が17日おきに出現して、左手が13日おきに出現して、両手が揃うのは221日おき。そして両手が揃った日だけ人を殺す。殺し過ぎずにいることで、うまいこと殺し続けられたわけだ。いやあ、おもしろいな。君が素数セミみたいな法則で休んでいるとは気が付いていたが、こんなことにつながるとは」

 俺はぽかんと口を開けた。
「つまり、ええっと、あの悪霊は……221日に1回人を殺すってことか?」
「端的に言うなら、そういうことだ。うまいことなっている。なぜ殺し始めたのかはわからないが……いや、それも……」
 安城はぶつぶつと何事かを言っているが、俺はまたそれを遮った。それよりも重要なことがある。
「法則が分かったとしても、それで俺は助かるのか?」
「君、ちゃんと話を聞いていたか?」
「聞いていたけど」
「君の目は素晴らしい武器だ。悪霊が意思を持たない殺人マシンなら、その仕組みの穴をつけばいい。ふつうの人間なら不可能だが、君にはできる」

 あやしげなセミナー講師のように、彼は「君ならできる」と繰り返す。
 俺は彼が苦手かもしれない。