「俺は悪霊に殺されます」
こう遺書に書いたとして、信じてくれる人はいるだろうか。
ここのところ、俺の頭の中はそれでいっぱいだ。
たとえば隣の席の豊橋陸人くんならなんと言うだろうか。
彼は俺が教科書を忘れたときに見せてくれるし、たまにいっしょにお昼ごはんを食べようと誘ってくれる、いい人だ。
しかし――。
俺は首を振る。
これまで俺が悪霊が見えると言って、信じてくれた人などひとりもいなかった。
俺の遺書を読んだ人はみんなこう考えるに違いない。
「古屋和弥さんは学校を休みがちで、きっと生まれつき体が弱かったんだと思います。それで疲れて、妙な遺書を書いたんでしょう」
そして俺の死も、悪霊に怯えた日々も全てなかったことになって日常に埋もれていくのだ。
*
俺がいつものように机に突っ伏して昼休みが早く終わるように念じていると、突然声をかけられた。
「セミちゃん」
顔を上げると、そこには切れ長の目をした男子生徒がいた。
「セミ……?」
「そう。セミ。君のあだ名。僕が考えた」
「ええと」
たぶん、彼はクラスメイトだ。
切れ長の瞳に、色素の薄い肌。
頭の中をぐるぐると検索するが、どうしても名前を思い出せない。
彼は胸を叩いてみせる。
「安城万理。一十百千万の万にことわりの理。マリじゃなくてバンリだ」
「え、あ、どうも」
「君の名前は?」
「古屋和弥ですけど」
「そうか。よろしく頼む」
教室で声を出すのが久々で縮こまる俺とは対照的に、彼は自信満々だ。
彼は俺の前の席の椅子を引いて勝手に座って足を組む。
彼は口は笑っているけど、目は笑っていない。
「君は休んだから知らないかもしれないが、僕はこのクラスの学級委員長に選ばれた」
「あ、はい」
「学級委員長として君に話がある」
「はい」
「月末の体育祭のことだ。出場したい種目はあるか? 希望を聞こう」
「ああ……」
話の内容がわかって、体から力が抜ける。
「ええと、今みんなの希望状況はどんな感じですか……? 人数の空きがある種目に入れてもらえればそれで……」
ひとまず無難に答えた俺に、万理くんは首を振る。
「それはまだわからないな」
「え?」
「他のクラスメイトの希望はまだ聞いていない。今週のロングホームルームで聞く。でも、その前に君の希望だけ聞きにきた」
「なんでですか?」
「敬語はやめろ。同級生だ」
「あ、は、うん」
頷いたのはいいが、なんとなく落ち着かない。
それは彼が自信にあふれ、とても自分と関わってくれるような人間に見えないからだろう。
こう遺書に書いたとして、信じてくれる人はいるだろうか。
ここのところ、俺の頭の中はそれでいっぱいだ。
たとえば隣の席の豊橋陸人くんならなんと言うだろうか。
彼は俺が教科書を忘れたときに見せてくれるし、たまにいっしょにお昼ごはんを食べようと誘ってくれる、いい人だ。
しかし――。
俺は首を振る。
これまで俺が悪霊が見えると言って、信じてくれた人などひとりもいなかった。
俺の遺書を読んだ人はみんなこう考えるに違いない。
「古屋和弥さんは学校を休みがちで、きっと生まれつき体が弱かったんだと思います。それで疲れて、妙な遺書を書いたんでしょう」
そして俺の死も、悪霊に怯えた日々も全てなかったことになって日常に埋もれていくのだ。
*
俺がいつものように机に突っ伏して昼休みが早く終わるように念じていると、突然声をかけられた。
「セミちゃん」
顔を上げると、そこには切れ長の目をした男子生徒がいた。
「セミ……?」
「そう。セミ。君のあだ名。僕が考えた」
「ええと」
たぶん、彼はクラスメイトだ。
切れ長の瞳に、色素の薄い肌。
頭の中をぐるぐると検索するが、どうしても名前を思い出せない。
彼は胸を叩いてみせる。
「安城万理。一十百千万の万にことわりの理。マリじゃなくてバンリだ」
「え、あ、どうも」
「君の名前は?」
「古屋和弥ですけど」
「そうか。よろしく頼む」
教室で声を出すのが久々で縮こまる俺とは対照的に、彼は自信満々だ。
彼は俺の前の席の椅子を引いて勝手に座って足を組む。
彼は口は笑っているけど、目は笑っていない。
「君は休んだから知らないかもしれないが、僕はこのクラスの学級委員長に選ばれた」
「あ、はい」
「学級委員長として君に話がある」
「はい」
「月末の体育祭のことだ。出場したい種目はあるか? 希望を聞こう」
「ああ……」
話の内容がわかって、体から力が抜ける。
「ええと、今みんなの希望状況はどんな感じですか……? 人数の空きがある種目に入れてもらえればそれで……」
ひとまず無難に答えた俺に、万理くんは首を振る。
「それはまだわからないな」
「え?」
「他のクラスメイトの希望はまだ聞いていない。今週のロングホームルームで聞く。でも、その前に君の希望だけ聞きにきた」
「なんでですか?」
「敬語はやめろ。同級生だ」
「あ、は、うん」
頷いたのはいいが、なんとなく落ち着かない。
それは彼が自信にあふれ、とても自分と関わってくれるような人間に見えないからだろう。
