大蛇の呪いと無能の花嫁


 【呪い】という言葉は私でも知っている。けれど、そんなものはただのおとぎ話とか、そういうもの。実際にかかった人がいるなんて話は聞いたことがない。


「【八岐大蛇の呪い】。身体の内にある霊力を封じ込められ、霊力枯渇症が続く」


 大蛇の、呪い。

 大蛇なんて、おとぎ話なんじゃ……?

 もしかして彼の肌にあるものは、縄の刺青ではなく、蛇……?

 霊力枯渇症、とは異能を使いすぎて起こる症状。眩暈が起こり、身体が締め上げられるくらいの息苦しさに苛まれ、全身の血液が蒸発するほど発熱する。それが、ずっと続いているだなんて……


「全身のこの(あざ)が証拠だ。刺青じゃない」


 掛け布団を剥がした事によって見えた、寝間着の隙間から見え隠れする、黒い蛇の痣。

 これが、大蛇の呪い……


「去れ。そして、もう来るな」

「……」

「他人に移したくない」


 拒絶の意味を表した、睨みつけてくる瞳。けれど、一瞬見せた……悲しげな表情。私はそれを、見逃さなかった。

 他人に移したくない。その言葉に、私に対する優しさも入っているかは分からない。けれど、これは……


「ならなおさらご飯食べなくちゃダメじゃない!」


 ――自分をとことん孤独に追いやる言葉でもある。


「呪いなんて私よく知らないけれど、貴方、昨日より顔色いいじゃない。だからこれから回復するかもしれないわよ」

「移ったらどうするんだ!」

「私、昨日触ったからもう手遅れよ」

「……は?」


 昨日、彼の汗を拭く時その蛇の痣に触っちゃった事を覚えてる。なら今更よね。今更後悔したところでもう触ってしまった事実は覆せないのだから、自分に出来る事をした方がまだマシよ。