ふと、気が付いた。
何だろう、この……何かに呼ばれているような……呼ばれてる? いや、違うような……何だろう、どう表せばいいのか分からない。けれど……ここから右方向に、何かを感じる。それは、少し遠くにあるように感じる。
私の足は、無意識に、その方向に向けて進み出していた。
生い茂る木々の中に入り、木を避けて進む。緑の匂いが鼻を抜け、そして……とある建物に辿り着いた。私に用意された住まいとよく似た、けれど素朴な造りの塀。その中にある建物はあまりよく見えない。
とても立派ではあるけれど、それにしては手入れがされていないのか周りの植物が伸びっぱなし。誰も住んでないのかしら? と思ったけれど、感じる。この建物の中に、何かある。
玄関口を探し、そして見つけて前に立つ。鍵が、開いてる……? 不用心だけれど、いいのかしら。
この建物の主は、一体誰なんだろう。そんな事を思いつつ扉を開いた。その先にあるのは、こぢんまりとした屋敷。私の住む屋敷と似ているけれど、そこまで大きくない。この建物の玄関も、鍵がかかっていない。失礼します、と小声で伝えつつも扉を開いた。
明かりのない建物内だけれど、陽の光が差し込み埃が溜まってしまっている事が分かる。掃除がされておらず、扉を開いたことによって少し埃が舞ってしまった。
けれど、そんな事を気にせず迷うことなく、光の異能で光の玉を作り出し明かりにしつつ中に足を踏み入れた。
匂いが、する。
埃の匂いの中に、微かに香る……甘い匂い。
一体どこから? この中に誰かいるの? そう思いつつも、その香りをたどった。軋む板張りの廊下。そしてその先にあったのは、廊下に並ぶふすまの内の一つ。一番奥にあるふすまだ。この先に何かがある。そう思っていた時、聞こえてきた。
誰かの、呻き声が。
誰かいる、苦しんでいる。そう理解し、いてもたってもいられず音を立てて思いっきりふすまを開いた。埃が舞ってしまったけれど、それどころじゃない。暗闇の中進んだ。
部屋はそんなに広くない。その奥に……あれは、布団の端? そして、呻き声と、誰かが寝ている事にも気が付いた。
「大丈夫ですかっ!!」
すぐに駆け寄り、そして明かりを照らした。黒い長髪をした男性が、汗をかいてうなされている。もしかして、病気か何かにかかっているの……!?
体調不良だという事は分かる。どうしよう、お医者様を呼ばなきゃいけないわよね。でも、今の私がどうお医者様をお呼びすればいいの?
なら、私が出来る事は……そう考えつつ部屋の天井近くまで光の玉を浮かせ、部屋を観察した。タオルとか、水とか必要よね。
この部屋の端に手ぬぐいが積まれていた事に気が付いた。匂いを嗅いでみれば、埃っぽくなく清潔そうな匂いがする。いや、むしろこの部屋だけ掃除されてる?
じゃあ、水場を見つけなくちゃ……
