その後、部屋に連れてかれて畳に降ろされた。そして、目の前に並べられた朝餉に、口が塞がらなかった。
「これ……私が食べても、いいの……?」
「当たり前だろ。お前に用意された朝餉なのだから」
お膳に並んだお皿には、艶めく白いご飯に、お味噌が溶かれ具材が入れられた汁物、ちょうどいい焼き目が付いた焼き魚に、いくつか並べられた、野菜の使われている小鉢。お漬物もあって、たぶん甘く煮詰めたであろうお豆も付いている。
今までは、同情してくれた使用人から教えてもらい自分で作ったものばかり。
それなのに、そんなものとは全く比べられない程に美味しそうな朝餉を、私が食べても、いいの……!?
いただきます、と食べ始めた朧の痛い視線が刺さる。そして、はぁ、とため息を吐きつつ、少し離れて向き合うように座っていた朧が、箸を置きお膳を持っては私の目の前まで移動し私のお膳に並べて目の前に座ってしまった。
周りに待機する使用人も驚くような声を漏らしていたけれど、目の前にお箸が出された。白いご飯が摘ままれており、私の口の前に。
「前はそなたに甲斐甲斐しく世話をしてもらったからな。次は我の番であろう。ほら、食え」
「で、でも……」
「そなたも食えと煩かっただろう。なら、我も食うまで引かぬぞ」
「う……」
周りに使用人の目がある。それに、朧は絶対に引かぬと言ってしまった。これは、食べるしかないのでは……?
確かに、私が強引に食べさせてしまっていた覚えはある。仕方なく、その箸に口を付けご飯を食べた。
お、美味しい……! あのべたべたしていたご飯と、全然違う。この食感、一粒一粒がふっくらしていて、とっても美味しい!
感動してしまい、つい涙が溢れてしまった。
「食事一口で泣くやつを初めて見たぞ。ほら、こっちを向け」
着物の長い袖をたくし上げ涙を拭ってくれる朧は、だいぶ呆れていた。けれど、それに文句が言えないくらい、それどころではなかった。
「とっても、美味しいです……」
「朝餉を作った者に言っておいてやれ。妻が泣くほど美味かったと」
「かしこまりました」
成人もした大の大人が人前で泣いてしまうなど恥ずかしい。けれど、この朝餉がとても美味しいのは本当の事だから……つい泣いてしまう。
「我も久しぶりの朝餉だが、そこまで泣かぬぞ。そなたは泣き虫だな」
「……」
泣き虫だなんて言われた事、ないのに。不服ではあるけれど、でも泣いてしまったから文句は言えない。
「……いただきます」
「食べられる程度でいいから、しっかり食べろ」
「……うん」
そんな優しさを感じながら、震える手で箸を持ち、お茶碗を持ってまた一口。……うん、美味しい。せっかく私に用意してくれたお料理なんだから、しょっぱくならないように気を付けなくちゃ。
気が付けば、最後の甘味まで食べ終わってしまった。とっても美味しくて、箸が止まらなかった。
「ごちそうさまでした。とっても、美味しかったです」
「それだけ食べられるなら心配いらないな」
とっても、とっても美味しかった。作ってくださった使用人さんに直接お礼を言いたいところだけれど、会わせてくれるかな……?

