今、どこから見ても押し倒されているように見えてしまってる。ここで言い訳をしても、意味がないどころか余計悪化しかねない。それに、これを帝に告げ口されたら……私どころか朧まで罰を受ける事になる。
私は別にいい。実家から見放され行く場所がなくなったとしても生きていける。けれど、朧は違う。呪いが解けかけているとはいえ、まだ完全に解呪されたというわけではないのだから療養出来る場所にいなくてはいけなくなる。
なら、どうしたら……
そう考えていると、朧に腕を掴まれ上半身を起こされた。
「そなたは誰だ」
「情夫が私に口を利くんじゃないわよっ! そもそも、私の前にいる事すらおこがましいっていうのに。下劣な無能のことだから、どうせどこかの平民でしょ? 後宮に醜い平民がいるなんてとんでもないわ! 後宮の品格が下がるものよ!」
後宮の品格なんて言葉は、香耶殿にだけは言われたくなかった。確かに、相伝の異能を継がなかった私が後宮どころか帝の正妻になんてなってしまって品格は損なわれた事でしょうけれど、香耶殿は自分の行いで先ほどまで品格を下げた。
それをどうして分からないのかしら。
朧の件は……何も言えない。彼は一体誰で、何故ここにいるのかすら分からないのだから。だから、情夫と言われて否定したところで、じゃあ誰なのと聞かれたら何も答えられない。
「お主、ギャーギャー煩いぞ。……――〝黙れ〟」
「っ……!?」
朧のその一言で、一瞬にして静寂が訪れた。つい先ほど感じた、重みのある、霊力を宿した一言。香耶殿との言い合いで秘書官が放った言葉と同じく、霊力を帯びた一言ではあるのだけれど、周りや私はもちろん、あれほどまでに霊力を持ち一族相伝の異能を持つ香耶殿まで怯むほどの、一言。
やっぱり、そうだ。これは……――【言霊】だ。
霊力で言葉を紡ぎ、相手に強制させる異能。これは、「止まれ」や「目を閉じろ」などの簡単な言葉であれば少ない霊力で済むものの、強い意味を持つ言葉や強い強制力になってくると大量の霊力を必要とする。
これは、まさしく皇族の、それも限られた者しか相続出来ない《言霊の異能》である。そして、今それを相続している者は皇族の中でただ一人。
……――帝である。
