けれど、油断してしまった。早く片付けなくちゃ、と思いお皿を持って立ち上がろうとした。けれど……一瞬、クラッと眩暈がしてしまった。さっき、霊力をたくさん使ってしまったから? でもここに急いだ時には何事もなかったからと油断した。
「琳っ!?」
倒れる。そう、思っていたのに。
おかしい……あれ? 気が付けば、すとん、とゆっくりと床に座り込んでいた。バランスを崩して倒れるところだったのに、あれ?
混乱していると、いきなり目の前に朧が迫ってきて……肩を強く掴まれた。
「……――〝我を見よ〟」
……え?
いきなり感じた、霊力。思考が停止し、そして気が付けば、私の視線は目の前の朧に向いていた。
今、何があったの……?
「……おい、琳。我に何をした」
鋭い視線が、私の瞳を射抜いた。先ほどの、香耶殿の異能よりも、断然鋭い視線が、私を見据える。けれど、その金色の瞳から、目が逸らせなかった。
何をした……? 彼は今、そう言った……?
「おかしいと思っていた。日に日に息苦しさはやわらぎ、うなされる事も減った。そして、今朝。今までにない程、発熱も、息苦しさもまったくない。更には、足元の痣まで少しずつ消えていっていた」
じゃあ、それは、呪いが解け始めている、という事でいいの……?
「それだけではない。先ほどの霊力と異能」
「え……?」
「我の霊力を締め上げる呪いの気配がしない。全く発熱せず、むしろ霊力が安定しすぎている」
もしかしてさっき転びかけた時、転ばなかったのは、朧の霊力……? じゃあ、その後いきなり朧を見るよう強制されたのは、まさか……
「この異変は、そなたがここに来た時からだ。一体どういうことだ」
「わ、たし、何も……」
「そのはずがないだろっ!」
「っ……」
治ったのならいいじゃない。そう言いたかったけれど、口をつぐんだ。朧の中では、そうはいかない。だって、異能が現れてからずっと、ずっとこの呪いに苛まれてここまで生きてきたのだから。
ここで、一人寂しく、呪いと、そして孤独と戦ってきた。それなのに、いきなり何故か治りましたとはいかない。
「医者も、解呪の異能を持つい能力者も、この呪いを解く事は無理だと断言したっ! それなのに、理由なくいきなり解呪し始めただと? そんなもの、納得いくわけないだろうっ!!」
「お、落ち着いてっ」
「これが落ち着いていられるかっ!!」
「わっ……!?」
朧の勢いに負け、つい背中から床に倒れてしまった。けれど、朧はそれでも迫ってくる。それだけ、混乱しているという事……?
気持ちは分かる。けれど、私も何が何だか……まずは落ち着かなきゃいけないのに、朧の勢いに怯んでしまう。
けれど、その時だった。
「九条琳っ!!」
この部屋の、ドアが開かれた。そして、私の名前を叫ぶ女性の声。すぐさまドアの方へ視線を向けて、顔を強張らせた。
先ほどまで、私の母の形見を巡って言い合いになった、相手。香耶殿だ。後ろには、こちらを覗く侍女たちもいる。
「はっ! さっきまで帝の妻のあるべき姿なんて得意げに語ってたくせして、貴方の方こそ風上にも置けないじゃないっ!!」
「っ……」
「何、後宮内のこんなところに情夫を匿うなんて、下劣の考える事ね!! 帝が目を向けてないからって高を括っていたようだけれど、残念だったわね!!」
香耶殿が朧の事を情夫呼ばわりしてきた事に、カチンときたけれど……これは、困ったわ。
