内心そう焦りつつも、香耶殿の方に足を進めた。一瞬びくついた香耶殿の手にあるかんざしを、スッと抜き取り笑顔を向けた。
「落とし物を拾ってくれて感謝するわ。ありがとう。秘書官殿、これはただ、私が香耶殿の異能を見せてほしいと無理なお願いをしてしまっただけですわ。ですから、どうぞお気になさらないでください」
「……ここは後宮。必要のない程の異能を使う事は帝が禁じておりますゆえ、どうか今後はこのような事が起きませぬようお願い申し上げます」
「えぇ、申し訳なかったわ。香耶殿も、無理なお願いをしてしまってごめんなさいね」
「……」
さすがに、これ以上事を荒立てたくない香耶殿は、口を挟む事はしなかった。秘書官殿は、何かを察したのかため息を吐きつつ、香耶殿に用事があるらしくそのまま彼女と共に洋館に向かっていった。
ふぅ、これで一件落着かしら。あの異能を受けずに済んだところは、あの秘書官殿に感謝ね。……で、早く屋敷に戻ってから朧の朝餉を作らなきゃ。
急いで屋敷に戻り、片づけを後回しにして朧のいる洋館に向かった。
粥をこぼさない程度に急ぎ、そしてようやく洋館に辿り着き、朧のいる部屋に。ドアを開けると、上半身を起こし窓を見つめる朧がいた。
「ごめんなさいっ! 遅くなっちゃってっ!」
「えっ……」
そんな声で、迎えられた。そんなに驚く事、あったのかしら?
「お腹空いたよね、ごめんね、色々あって遅くなっちゃったの……」
「……」
駆け寄り布団の隣に座っては粥のふたを取った。けれど彼は、だいぶ驚いている様子を見せてくる。そこまで驚くの? ……もしかして、もう来ないと思われちゃったかしら……?
「はい、あーん」
「……」
食べてくれるかしら、と少し心配してしまったけれど、いつもの文句は言わず素直に食べてくれた。……ここまで素直だと、逆に心配になっちゃいそうね。
でもちゃんと食べてくれるのだから安心ね。
「……戻ってこないと思った」
「えっ?」
「……何でもない」
戻ってこないと思った、って言った……?
それは……もう少し急いで来た方が良かったわね。でも、やっぱり母の忘れ形見は取り戻したかった。香耶殿にちょっかいを出されない工夫が必要だった。これは私の失態ね。
いつもより早く、お皿の中はすっからかんになった。今日は色々と具材を入れたから、栄養は満点だったと思う。だから嬉しいわ。
「美味しかった?」
「……マズくはなかった」
「ふふ、ありがとう」
視線を違う方向に向けて答える朧に、つい笑ってしまった。本当に素直じゃないんだから。
