「ここに嫁いだなら実家は関係ないわ。今、貴方は伊集院の娘ではなく帝に嫁いだ側室。その意味、分からないわけじゃないでしょう? ちゃんと教育を受けた香耶殿であるならば、その意味は分かるはずだわ。そして、自分の取るべき振る舞い方も、十分に理解しているでしょう」
「……」
「貴方は、この国のお手本となるべくしてここに嫁いだのでしょう。伊集院の姓を捨て、そして帝に嫁いだ。理解しているわよね」
序列二位の、この国にとって影響力のある家の娘であれば、ちゃんとした教育を受けたはず。なら、この行いが間違った事だと十分に分かるはずよ。今までの行動だって、帝の妻として恥ずかしい事だと分かっているはず。
他人を鬱憤晴らしというだけで傷つけるのは、帝の妻どころか五家の一族、更には序列二位の一族の娘であればとんでもない行為となる。
「……無能のくせに、私に分かったような口を利かないでちょうだい。貴方とは、生まれも、異能も、知能も桁が違うのよ。分かっていないというのならば、教えてあげましょうか?」
彼女の周りには、ふよふよと浮かぶ水の玉。なるほど、口ではなく武力で相手を黙らせるという事ね。
彼女は、上げた手を下ろし私に向かって指差した。それを合図に、水の玉が私に向かって突進してくる。これは今までもあった。相手が相手で面倒だからと仕方なく受けていたけれど……今日は、仕方ないでは済まさない。
異能とは、皆が生まれ持つ霊力を源とし生む力。異能は霊力で作られているものとなる。となれば……霊力には霊力をぶつけ相殺させればいい。
「なっ!?」
「きっ、消え……?」
とはいえ、これだけの異能に霊力をぶつけるのであれば相当な霊力が必要となる。けれど、純粋な、淀みのない霊力であれば、少量であっても止められる。
私の母は、五家の中でも序列三位の一族の出。清廉潔白と謳われるほど、澄んだ霊力を身に宿し生まれる子が多い一族。例え異能が明かりを灯す程度の光の異能であったとしても、母と似て霊力は澄んでいる純粋なもの。
「むっ無能のくせにっ!!」
「えっ」
「きゃぁ!?」
相殺され頭に血が昇ったのか、香耶殿は鋭く尖らせた水を何本も出現させた。怒りを露わにし、身体から漏れ出る大量の霊力に、周りの侍女達は恐怖を感じたのか青ざめ後ずさる。
こんなところで異能を制御せずここまで……と呆れてしまうけれど、さすがにこれは私も止められる自信がない。どうしよう……これは、怪我どころの騒ぎにならない。
でも、これで私が大怪我をしたとなれば、きっと騒ぎになり帝の耳にも入る事でしょうね。果たして、帝はどうなさるのか。……だいぶ怖いけれど、試してみるのも悪くないと思う。怖いけど、恐ろしいけれど。
けれど、その時だった。
「そこまでっ!!」
そんな、霊力を込めた大きな一言が私と香耶殿の間を引き裂いた。
その声は、少し遠くにいた、人物。……帝の秘書官だ。
「香耶殿下、これは一体どういう事でしょうか」
「あ、いえ、これは……」
ここまで異能を露わにしてしまった香耶殿は、どう言い訳を付けようかだいぶ迷っている、いや、焦っている。これが帝の耳に入ってしまったら……と恐れている。
けれど、私としては別に気にする事じゃない。……あっ、そうだ、朧の朝餉忘れてた……!?
きっとお腹を空かせて待ってるわよね。どうしよう、早く戻らなきゃ。
