「あら、煩いと思ったらあなただったのね」
奥から、私が探していた女性が一人、侍女二人を引き連れて出てきてくれた。彼女なら出てくると思った。
私に会いに行っても出てこず、屋敷に侵入しても私の姿がなくあんな事をした、というところでしょうね。あの惨状は。
「香耶殿、物事にはやっていい事と悪い事があるとあなたも分かっているでしょう」
「それはもちろんよ。で?」
「この国を治める帝の妻であるならば、盗みなんてことをするなんてとんでもない事だと思うのだけれど」
「嫌だわ、人を盗人だと決めつけるだなんてむしろあなたの方こそ帝の正妻にふさわしくないのではなくて?」
「……」
なるほど。後宮の使用人達はこちら側なのだから、何をしたところで帝たちの耳には入らないと高を括っているのね。どうせ、屋敷の惨状を見られてしまったとしても私が自分でやったと言い出す事でしょうね。
けれど、取られたものは返してもらわなければ困る。
「返してちょうだい」
「あら、何の事かしら。覚えがないのだけれど……」
「あら。そんな年でボケてしまうなんてなんて可哀そうなのかしら。貴方にはまず医者に頭を診てもらう事をお勧めするわ」
「……何ですって?」
「あぁ、ごめんなさいね。お医者様なんて帝が呼んでくれるわけないものね。だって、お会いしたくともすべて無視されますものね。これでは婚儀を行ったとしても夫婦になったと言い難いわ。あぁ、貴方は婚儀は執り行わなかったから、私よりも実感がないかしら」
これくらいの挑発に乗ってくれるかは分からなかったけれど、わなわなと怒りを露わにし顔を赤くして身震いしている様子を見れば、効いたみたいね。こんな場で、これくらいで取り乱すのはよくないわ。
「はっ、下劣な娘は言う事がご立派ね! 相伝の異能すら使えない無能ですもの、卑劣な手でも使わなきゃこんなところにいないわ! 今だって、貴方の周りには誰もいない。正妻のくせして惨めね!」
「……」
「それだから、自分の大切なものも取られるのよ」
侍女が香耶殿に渡し、私に見せたもの。それは、私が探し求めていたもの。母の形見である、かんざし。母が生前、これを持って嫁いできた。ずっと大切にしてきたそれを、母は笑って私の髪に差してくれた。とても似合うわ、と言ってくれたことを今でも覚えてる。
だから、それだけは奪われてなるものか。
「側室であっても、貴方は帝の妻よ。後宮で好きにするのは私は構わない。けれど、人のものを取る行為だけは許さない」
「許さない? 貴方が? 笑わせないでちょうだい。貴方は私が誰なのか分からないの? 教育すら受けていない無能な頭では理解出来なかったかしら」
私は異能が出現する10歳の頃から、いないものとされ教育も受けてこなかった。けれど、10歳になるまでは教育を受けていた。九条家では男児は生まれなかったがため姉である私は小さい頃から叩きこまれてきた。
そのため少しだけではあるけれど読み書きも出来る。だから、香耶殿のその言葉は間違っている。
