朧が落ち着き、呼吸も安定した頃。安心してうたた寝をしてしまったのか、気が付けば障子から陽の光が差し込んでいた。
朧は……うん、ちゃんと寝てる。よかった。となれば……まずは朝餉ね。ちょっと心配ではあるけれど、早く屋敷に戻って朝餉を持ってこよう。
……と、思ったのだけれど。
「……盗人? それとも、大きな動物が入っちゃったのかしら……?」
屋敷に入る寸前で、驚いてしまった。南京錠が、壊されてる。だいぶ強引に壊されているから、誰か入ったんじゃ……と急ぎ中に入ると、置いてあった花瓶は割れ、箪笥は全て引き出しが抜かれ中身はひっくり返されている光景が目に入った。
すぐに分かった。これは香耶殿の仕業だと。畳や板張りの床は水でずぶ濡れなのだから、きっとこれは彼女の異能。
……ちょっと待って。
私はすぐに、奥の箪笥に駆け寄った。そして、探した。私の大事な、小さなあの箱を。
幸い、箱はすぐに見つかった。散乱した着物の下になっていたから。でも、顔が引きつった。
中身が、ない。
私は、実家である九条家の今の夫人の娘ではない。あの人は再婚相手。その前に夫人となったお母様の実の娘。そのお母様のかんざしが、ない。
あれは、お母様の形見。あれだけは、あれだけは私の宝物だった。身に付けていたら絶対に香耶殿の目に留まると思って隠していたのに……ない。
私は、すぐに屋敷を飛び出した。
あれだけは、駄目。あれだけは、お母様と繋がっていられる唯一のものだから。
煉瓦で作られた道を進めば、大きな洋館が見えてきた。ハイカラな建物の前には、門番が二人いる。私を見るなり門の前に立ちはだかった。
「お停まり下さいっ!!」
「香耶殿に会わせて」
「貴方は絶対に通すなとの仰せです」
私を通すな、ね……私が来ると分かっていての命、というわけね。
「なら呼んできてちょうだい。いるんでしょ? こちらに。帝は私達を後宮から外出する事を禁じたのだから、ここにいるわよね」
「それは……」
二人は、顔を見合わせた。やっぱりここにいるのね。香耶殿の命も守らないといけないけれど、でも相手は帝の正妻。彼女は側室で、私の方が身分が上。だから渋っている。となれば、もう一押しすれば入らせてくれるかもしれない。
けれど、少しではあるけれど彼女の性格を知っている私なら分かる。……彼女は、高みの見物より自ら下す方が好みだという事を。
