異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<side朝比奈斗希>

真っ暗な地下室に閉じ込められ、僕の頭には絶望しかなかった。
拘束していた紐を摩擦で千切り、なんとか腕は自由になった。
けれど鍵のかかった狭い檻に入れられた事実は変わらない。

明日、男が来てこの檻から出してくれる保証は全くない。
だけど、ほんのわずかでも生きる希望が残っているのなら、その希望に縋るしかないのだろう。

ハンカチや洋服に染み込んだ池の水を吸い、あとは待つしかない。
時折小動物が動き回るようなガサガサという音が聞こえる。
それに怯えながら、時が経つのを待つ。けれど、時計もない。
視覚を百パーセント遮断された真っ暗な中では、どれだけの時が過ぎたのかもわからない。

このまま死んでしまうかもしれないという恐怖でパニックになってしまった僕は、聞こえないとわかっていながらも声を張り上げ叫んだ。だけど、なぜか自分の叫び声が一切耳に入ってこない。
地下室は僕が檻に捕まって暴れている音だけが響くだけ。

どうして?

僕は「うわぁーーーっ!」と叫んだ。
けれど、一切聞こえない。
暴れる音が聞こえているから、聴力を失ったわけではないようだ。

もしかしたら、あまりの恐怖に声が出せなくなったのかもしれない。

これで、僕は助けを呼ぶこともできなくなった。

暗く、狭いこの檻の中で、助けもないまま命を終えるのだろう。

そう諦めたら、もうどうでも良くなった。

命を終えるまでじっとしていよう。

全ての希望を失って、僕はただ時が過ぎるのを待った。

だんだんと身体が動かなくなってきた。
もうその時が来たのかもしれない。

僕の人生がこのような形で終わってしまうことが悲しいけれど、その涙ももう出ない。
このままここで……

そう思った時、遥か遠くにぼんやりと光が見えた。

その光が、まるで僕の命の灯火のように見えて気づけば必死に声を出していた。
けれどやはり言葉は出ない。
ほんのわずかな呻き声のような小さな声が漏れるだけ。

これではたとえ助けだったとしても、気づいてはもらえないだろう。

諦めるしかない、そう思った。

「静かに。何か、聞こえないか?」

明らかにあの男じゃない、別の声が聞こえてきた。

これは僕に残された最後の希望。
僕の最後の力を振り絞って声にならない呻き声をあげた。

もうこれが全ての力。
その後の記憶はない。

  ◇◇◇

強い力で押さえつけられたような感覚に襲われて目を覚ました。
けれどどこも拘束されていないようだ。ただ、全身に痛みがあって動かせないだけだ。
もしかして、僕は……たす、かった?

長い時間何も見えない暗闇にいたからか、視界がぼんやりとモヤがかかったように見える。あの出来事は夢だったと思いたい。けれど、身体の異変があの出来事が現実だったと言っている。
ここは一体どこだろう?
必死に目を開けると、ようやく少しずつクリアになっていった。

見たことがない高い天井。
やっぱりここは僕が知らない場所だ。

「おおっ、よかった。目を覚ましたか」

突然聞こえた声に身体が震える。同時に全身に痛みが走った。

「うぅ……っ」

「痛い」と声を上げたつもりだったけれど、まだ呻き声しか出せないみたいだ。
しかもその声は驚くほど小さい、
けれど、僕の呻き声にその声の主はすぐに反応した。

「無理しないでいい」

優しい笑顔を向けられ手を差し出されて身体がビクッとする。
怖い……
その感情が抑えられない。

この人は多分、あの時助けに来てくれた声だとわかっている。
僕をあの地下室の檻に閉じ込めたあの男とは違うと頭ではわかっているけれど、身体が拒絶してしまう。

恐怖に震えながら目の前の男性を見つめる。彼は僕に差し出した手をスッと引いた。
きっと僕が怯えていることに気づいたんだろう。

「怖い思いをしたんだ。君のその反応は仕方のないことだ」

そう言ってくれる彼の表情が少し寂しそうで申し訳ない。
でもどうしても怖いと思ってしまう。

彼は少し離れた場所に座り、ゆっくりと口を開いた。

「私の名前はエリアス・ランチェスター。そして、君がいるここはフィオラード王国にある私の屋敷だ」

フィオラード、王国……
聞いたことがない国だ。
多分僕のいた世界にはなかったはず。
ということは信じられないことだけど僕は階段から落ちたあの瞬間に、どこか別の世界に来てしまったと言うことなんだろう。そんな小説や映画の中の出来事が自分の身に降りかかるなんて思いもしなかった。

「ここには、君を脅かすものは何もない。安心してここで静養してほしい」

こんなにも優しくしてくれるこの人に、恐怖を感じるなんて本当に申し訳ない。
でも……自分でもどうしたらいいのかわからない。

僕は混乱を隠すことができなかった。