異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

「今、ほんのわずかだが経口補水液を飲ませた。すぐに診察をしてくれ」

「は、はい」

医師は驚愕の表情を浮かべたまま、その儚げな子どもの脈をとる。
眉を顰めて服の上から聴診器をあてる。
その表情がどちらも浮かない様子なのが気になる。

あんな窮屈な場所に詰め込むように入れられていたのだ。
おそらく状態は良くないだろう。だが、なんとかして元気にしてやらなければ。

医師がさっと聴診器を耳から外したところでたまらず尋ねた。

「どうだ? この子は助かるか?」

「経口補水液が功を奏したようです。ランチェスター公爵様のおかげで危機は脱しています」

その言葉に安堵のため息が漏れる。

「水分を摂らせるのがもう少し遅ければ間に合わなかったでしょう。今から栄養価の高い点滴をいたしますので、それが終われば意識を取り戻すかと存じます」

そう説明するや否や、医師は持っていた鞄から薬液の入った袋を取り出し、子どもの小さな手に極細の針を刺す。
それすらも痛々しく見えるが、この子を元気にするためには仕方がない。
クラウスは、子爵の寝室に置きっぱなしになっていた薬液を引っ掛けるスタンドを持ってきて、医師は手早く点滴を始めた。

「三時間ほどで終わりますが、どなたかおそばについていていただけますか?」

「ああ、乗りかかった船だ。もうこの屋敷も私のものになったのだからな。私が最後まで責任を持つとしよう」

医師は安堵の表情を見せた。きっと自分が面倒を見なければいけないと心配していたのだろう。いつもの私なら医師に預けてエヴァンス子爵の火葬が終わり次第、帰途についたに違いない。
だが、この子だけはそうしてはいけないとそんな気持ちが湧き上がっていた。

医師は子どもが飲みやすいように液体の薬を二日分用意し、目が覚めた場合に何を食べさせたら良いかを事細かくクラウスに説明をした。クラウスはそれらを全てメモに取り、医師は帰っていった。

「クラウス。すぐに馬車から私の着替えを二組持ってきてくれ」

「旦那様のお着替えでございますか?」

「この子もいつまでもこの不潔な衣服でいるわけにはいかないだろう。私のものだと大きいが、この姿よりはずっとマシだ。ついでに身体を清めるお湯とタオルも準備してくれ」

「承知いたしました」

直ちに指示したものがクラウスによって私のもとに集められた。

「旦那様。私が――」
「いや、いい。私がやる」

「えっ? 旦那様が、なさるのですか?」

「ああ。こちらは私に任せてクラウスとヨハンは火葬場に行ってきてくれ。そろそろ終わる頃だろう」

いつもの私なら絶対にこんなことは言わない。それは自分自身でもわかっている。
だがこの子の裸はクラウスにさえも見せたくないと思ってしまった。

「承知いたしました。すぐに行って参ります」

私の頑なな気持ちを理解してくれたようで、二人は静かに部屋を出ていった。

ベッドに横たわる、まだ意識の戻らない小さな子を見つめる。
どうしてこの子は地下室に捕えられていたのか……
この子がいた状況を考えれば、地下室に閉じ込めたのはエヴァンス子爵なのは間違いない。
奴の子どもである可能性もないわけではないが、あのような檻に入れていたのだからどこかから攫って監禁していたと見るのが妥当だろう。奴のしたことは人として到底許し難いが、今際の際に私に地下室の存在を伝えたのはほんのわずかでも人の気持ちが残っていたからなのか、それとも他に理由があったのかはわからない。
だがあのまま奴が地下室の存在を伝えずに死んでいたら、この子はあの暗い地下室で息絶えるしかなかった。
本当にギリギリの状態だったが、今は救出できてよかったと言わざるを得ない。

じっとこの子の顔を見つめるが。ボサボサになった金色の髪が泥汚れの顔に張り付いてよく顔が見えない。
無理やり剥がしても痛みを感じるだろう。まずは濡れタオルで優しく顔を拭いてやろう。

小さな顔を濡れタオルで優しく拭う。一度でタオルが真っ黒になった。
これは意図的に泥をつけられたようだ。
だが、地下室にもあの檻の中にも泥のようなものはなかった。

奴がわざとこの子の顔を汚したのか、それともこの子が自分でやったのか……それはわからない。だが何度も泥を拭い取り、ようやくこの子の素顔が見えて、わざと汚した理由がわかった気がした。

泥だらけの顔の下から現れたのは、透き通るほど美しい色白の肌。
栄養価の高い点滴の効果が出てきているのか、頬にほんのりと赤みがさしてきている。

実に可愛らしい。それが私の印象だった。

もし、この子が自分で顔を汚したのなら、おそらく自衛のためだろう。
可愛らしい真の姿ではどこにいてもすぐに襲われてしまう。

もし奴がやったのなら、奴隷として売るにしては綺麗すぎると思ったのか、それとも他に理由があったのか、いずれにしてもこの可愛らしい顔を隠そうとしたのは間違いない。

それにしても汚れの量が多すぎて、濡れタオルでは追いつかないな。
このままだと汚れが取れる前にこの子が風邪をひいてしまいそうだ。

「そういえば……」

部屋の奥に風呂場があったのを思い出し、急いで向かった。
風呂場も古びているが、シャワーを出してみると一応湯は出るようだ。

バスタオルの類も先ほどクラウスが着替えと一緒に持ってきてくれているから問題ない。

部屋に置いてあった鋏でこの子の肌を覆っていた服を切り裂いていく。
この見慣れない衣装も気になるが、その服の下から現れた陶器のように滑らかで美しい色白の肌にハッと息を呑んだ。

美しいのは肌だけではない。
細く長い手足。
折れそうなほど細い腰。
全てにおいて美しい身体。

男でありながらここまでの美人は見たことがない。
つい見惚れてしまう。
この美しさはまるで……

いや、そんなはずはない。
頭に浮かんだある可能性を必死に排除して、余計なことを考えないようにした。
そんなことよりも今はこの身体を清めてやらなければいけない。

自分の上着を脱ぎ捨て、袖とズボンを捲り上げる。
点滴の針が外れないように、そっと小さな身体を抱きかかえて、スタンドごと風呂場に運んだ。