異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideエリアス>

本当は陛下の御前に向かうまで、トキを怖がらせないように誰も会わせたくなかった。だから陛下にトキとの対面をお許しする旨の書状を送った時、人払いをしてほしいと要望したかった。だが、城の警備のことを考えれば門前に誰も置かないわけにはいかない。

私がトキを守るしかないのだ。

訪問する日時は、すでにお伝えしている。
なんとかトキを無事に謁見の間に連れて行けるように最善を尽くすしかない。

馬車に乗り込んだあと、外の様子を見て怯えの表情を見せれば途中で引き返してもいいと思っていたが、意外と表情は明るくて安堵した。それどころか、私たちが乗っている馬車に向かってお辞儀をしている者たちを見て、理由を尋ねてくる。

周りに関心を持てるほどトキの心に余裕ができたのが私は嬉しかった。

しかし、正直にその理由を告げるとトキは表情を曇らせた。

「僕……エリアスさんの恋人、というか、好きでいていいのかなって……ちょっと心配になって」

私はトキのその不安な気持ちをすぐに払拭することに尽力した。
公爵家という肩書きを面倒だと思ったことは、これまでの人生でなかったとは言わない。常に、この国で唯一の公爵家の次期公爵としてのプレッシャーがあったことは事実。だが、トキと出会って平民でなくてよかった、と心から思えた。

なぜなら、トキはこの世界で最上位であるのだから。

トキがいくら私を好いてくれたとしても、私がただの平民であればあの王子に真っ向から戦いを挑めたかわからない。
たとえトキ自身が望んでくれても、陛下が考えを変えるまでには至らなかったかもしれない。そう考えれば私は公爵で良かったのだといえよう。

もちろん身分など関係なく、トキのそばにいたいという気持ちはしっかりとトキに伝えた。トキもまた私のそばにいたいと言ってくれて嬉しかった。

私は改めてお互いの思いを伝え合い、トキの安心した表情を見て安堵した。

そうしている間に、馬車は王城に到着した。
トキを抱きかかえて馬車を降りる。
大勢の騎士たちが玄関に並んでいてトキが身体を震わせた。

やはり驚かせてしまったな。
無理もない。クラウスやロジェリオにさえ、ようやく自然な笑顔を見せられるようになったのは最近だ。

私は上着を開け、胸に押し付けるようにトキを抱く。上着をトキの身体に回すと、外部の音よりも私の鼓動だけが聞こえるだろう。

「お前たち、離れていろ」

威圧を放ちながら騎士たちに声をかける。
彼らは、私たちの視界から避けるようにさっと離れていった。
とりあえずはこれでいい。

トキにもう大丈夫だと告げながら城の中に入っていく。

控えの間に到着すると、部屋の前に控えていた騎士が黙礼し、静かに扉を開いた。
その傍から一歩進み出た侍従が一礼し、いつもと変わらぬ穏やかな口調で告げる。

「こちらにて、しばしお待ちくださいませ」

案内され、足を踏み入れる。室内は静まり返っていた。
緊張しているのか、私の腕の中でトキは身体をこわばらせていた。

それに気づき、そっとソファに腰を下ろした私は、トキの背中を優しく撫でた。

「そう身構えなくていい。ここはまだ、ただ待つだけの場所だ。私とトキの二人しかいない」

私の言葉にそっと顔をあげたトキの額に、軽く額を寄せ、優しく囁いた。

「大丈夫。私がついているから」

はっきりと告げると、トキのこわばっていた身体の力が少しだけ緩んだのを感じ、私は胸を撫で下ろした。

程なくして控えの間の扉がノックされた。

「陛下がお待ちでございます」

侍従の声に、静かに頷いた。
トキを抱きかかえたまま立ち上がり、謁見の間に続く扉に向かった。

重厚な扉が開かれる。同時にひんやりとした空気が肌を撫でる。
謁見の間は、控えの間とは比べものにならないほど広く、そして静まり返っていた。

通常ならトキを腕から下ろし、自らの足で陛下の前に向かうのが当然だ。だが、トキの場合は別だ。まだ無理をさせられないことを、陛下もご承知の上である。

私はトキを抱いたまま、ゆっくりと歩を進めた。
そして、そのままの姿勢で形式通りに膝を折る。

「エリアス・ランチェスター。陛下の御前に参上いたしました」

「……顔をあげよ、公爵」

短く告げられ、私は顔をあげた。だが、やはり陛下の視線は私ではなく――
私の胸に抱かれたトキにまっすぐ注がれていた。