異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

我が家の地下室にも、先祖から受け継いだ宝をいくつか保管している。
何も知らずにこの家を取り壊したら、エヴァンス子爵の宝が埋没するところだったかもしれない。
今にも朽ち果てそうなこの屋敷に住んでいても貴族だったのだから、先祖から受け継いだ宝の一つや二つあっても不思議ではない。エヴァンス子爵は最期の力を振り絞って私に伝えたかったのだろう。
なんせ、彼は長年患っていたわけではない。
急な出来事で生死の境を彷徨い、たった数日の間にそのまま命を終えることになったのだから。

「地下への入り口を探すぞ」

クラウスとヨハンと共にすぐにこの屋敷の一階を捜索した。
だがどこにも地下に続く階段のようなものは見当たらない。

あの執事なら地下室の存在を知っていただろうか。
早々にこの屋敷を去らせたことを少し後悔するが、もう遅い。
私たちで地下室への入り口を見つけるしかない。

地下への階段が見える範囲に存在しないのなら、それは隠されているということだ。
入り口そのものを隠されているとなると見つけ出すのはかなり厄介だが、少なくとも彼の部屋か、執務室から行けるようにしているはずだろう。自分の目の届かない場所にあるわけがない。
クラウスとヨハンに執務室を探すように指示をだし、私はエヴァン子爵が最期の時を過ごした彼の自室に向かった。

彼を火葬場へ運び出した際に、執事にベッドも一緒に処分させたから、あの異臭は少し和らいでいるようだ。だが、あまり感じのいい部屋ではない。

そういえば、あの執事はここに主人が倒れているのを発見したと言っていたな……

それが地下室から戻ってきた時だとしたら……?
その可能性はある。

この部屋に隠し扉をつけるとするなら、どこだろう。

壁に触れ、叩きながら慎重に室内を歩いてみる。
だが、空洞のようなものは感じられない。

私は部屋の中を見回した。何か違和感を感じないかじっくりと見ていく。
ん? 窓際にある本棚にはかなり古びた本が置かれているようだ。
気になって近づき、そっと手に取ってみた。背表紙もボロボロで中の文字も読める状態ではない。古美術品としての価値もないだろう。

それならなぜ本としての役割をなさないような物を並べているのか。
そう思った時、本棚の左側の床の隅になんとなく違和感があった。

その場にしゃがみ込み、手のひらで床を撫でてみると小さな窪みを見つけた。
その窪みに指を入れクッと力を入れると、本棚がキィっと音を立てて動いた。

そっと覗き込んでみると、下からの空気の流れを感じる。
間違いない。ここが地下室への入り口だ。
なるほど。入り口を隠すためだけに置いていたから本としての価値がなかろうがどうでも良かったというわけか。

地下室を確かめたいが、そのまま入れば閉じ込められる恐れもある。

「クラウス、ヨハン! すぐにこちらにこい!」

執務室を捜索している二人を呼び寄せている間に、室内に置いてあった二台の燭台に火をつけた。

「旦那様。お待たせいたしました。何かございましたか?」

「地下室への入り口と思しき扉を見つけた。ヨハンは入り口が閉じないように見張っていろ。クラウスは私についてこい」

クラウスに燭台を渡し、ヨハンに地下室への扉を大きく開けさせた。
もう一つの燭台を手に階段を照らしてみる。先ほどは暗くてあまりよく見えなかったが、かなり急な階段だ。

「旦那様。お足元にお気をつけください」

「ああ、クラウスもな」

慎重に数十段の階段を下り、ようやく最後の一段を下り終えた。

「ここが、地下室か……」

その声の響き具合からかなりの広さがあることが窺える。
どこかに電気のスイッチがあるのだろうが、近くには見当たらない。

燭台を高く掲げて遠くを照らしてみる。
近くには宝を保管していそうな台などは見えない。
それならば、エヴァンス子爵はこの地下室でいったい何をしていたのだろうか。

「特に何もないようですが……」

クラウスの声に混じって何か音が聞こえる。

「静かに。何か、聞こえないか?」

耳を澄ませて、灯りで足元を照らしつつその音の聞こえるほうに進んでみる。

「旦那様。ご無理はなさいませんように」

クラウスは心配して声をかけてくれるが、微かに聞こえてくる音が気になって仕方がない。

あの音はいったい何だ?
自分の足音でその音が消えぬように静かに近づく。

「誰か、いるのか?」

こんな場所にいるはずがないとわかっているが、念のため地下室中に聞こえる声をかけてみる。
だが、何も聞こえない。

「さっきのは空耳だったか……」

そう思ったとき、私の耳に微かに音が聞こえた。

「うぅ……」

消え入るようなその音がまるで人の声のように聞こえた。