異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

「エリアスさん? どうしたんですか?」

陛下からの手紙に茫然と立ち尽くしてしまっていたから、トキに気づかれてしまった。

「いや、なんでも――」

そう言いかけて、ハッとする。
ここで内緒にするとせっかく築き上げたトキとの信頼関係にヒビが入ってしまうのではないか。

考えてみれば、トキにはあの侵入者が王子だとは知らせていない。
それならそのことを伏せて、陛下と会う分には問題はないだろう。
幸い、鍛錬を欠かさず行なっている陛下の容貌と、王子とは全く似ていない。
それならトキを陛下に御目通りさせても、あの王子を思い出すことはないだろう。

私は一度深く息を吸い、手紙を机の上に伏せた。

「……少し、話をしよう」

私の声色に少し緊張の色が見えたのか、トキは不安そうにこちらを見た。

「悪い。怯えさせるつもりはない。実はな、陛下から手紙が届いた」

「えっ、陛下って……国王、さま?」

その問いに私は静かに頷いた。

「な、んて? 僕、怒られたり、しますか?」

トキの斜め上の発言に私の緊張がふっとほぐれる。
本当にトキは可愛らしい。

「トキが怒られるなんてことあるはずがない。陛下は……トキに会いたいと仰っておられる」

「えっ? 僕に、会いたい? どうして、ですか?」

本当のことを言えば、陛下はトキに謝罪をなさりたいのだろうが、何も知らないトキにはそれは言えない。

もし、あのようなことがなければ通していたであろう手順を教えるしかない。

「我が国では、トキのように異世界からやってきた者は陛下に御目通りし、この国で生活することを認めていただくことになっている。ただトキの場合は、私がトキの保護者というか、家族になっているから挨拶をしに行くということになるな」

「国王さまに、挨拶……」

「そうだ。もちろん、行くか行かないかはトキに選ぶ権利がある」

「えっ、どうしてですか?」

「我が国では陛下よりも、異世界からやってきたトキのほうが形式上は身分が上になる」

「……そう、なんですね」

そう告げると、トキは俯き、指先をきゅっと握りしめた。
清らかで奥ゆかしいフィリグランだ。上だと言われても横柄な態度をとるわけでもない。ましてや怖さが消えるわけなどないのだから。やはり無理だと伝えよう。

フィリグランはそれだけ大事な存在である上に、陛下は謝罪を申し出たほうだから、トキが嫌だというのなら断るだけだ。そのことに関して反論など一切来ることはない。

だが……

「……エリアス、さんは」

少し怯えたような小さな声が、沈黙を破る。

「エリアスさんは、一緒に来てくれますか?」

「当然だ。トキを一人にはしない」

はっきりとそう告げると、トキは少しだけ安心したように息を吐いた。

「それなら……挨拶に、行きます」

「無理してないか?」

「この家から出るのはちょっと怖いですけど、でも……」

トキは顔を上げて、まっすぐに私を見た。

「この世界でエリアスさんと一緒に生きていくなら、ずっと逃げているわけにはいかないですから」

その言葉に、私は何も言えなくなった。

トキは確実に前に進もうとしている。
その芽を私が摘むわけにはいかない。

「わかった。陛下に了承の返事を返しておこう」

そう告げると、トキは静かに微笑んだ。

   *   *   *

王城へ向かう朝は、驚くほど静かだった。
空は澄み、庭の草木は夜露を纏って太陽の光を浴び、美しく輝いていた。
まるで、何事もなかったようにいつもの平和な朝を迎えていた。

だが、今日という日は確実に特別だ。
なんせ、トキが初めて外の世界に出るのだから。

「……トキ、緊張しているか?」

もうすぐ家を出る。その前にトキに声をかけた。
トキは少し考えた様子を見せたが、静かに頷いた。

「はい。ちょっと……いや、かなり……でも、エリアスさんがいるから、大丈夫です」

そう言って笑顔を見せるトキを私はそっと抱きしめた。

「あの、でも……もし、途中でダメだなって思ったら……」

「そのときは、すぐに引き返す」

「でも、怒られませんか?」

「誰に?」

「えっと、国王さまに……」

心配そうに見上げるトキに私は笑顔を返した。

「トキを怒る権利など、誰にもないよ」

そういうと、トキは可愛らしい笑顔を見せた。

「エリアスさんって、すごいですね。なんだかすごく安心しました」

トキの私への信頼が強くなっている。それがすごく嬉しかった。